第91話 復讐完了
謁見の間が割れて左右に広がっていく。
室外も同様に切断されていた。
上下が逆さまになった城が、少年の刃で真っ二つになったのだ。
そして、耐え切れず崩壊を始めている。
(このままだと危ないな)
私は室内に張り巡らせた茨と鎖を城全体に伸ばして力任せに分断を防ぐ。
加えて再び能力で封鎖し、城内にいる生き残りを逃がさないようにする。
これでしばらくは持つだろう。
生き残りについても放置する気はなかった。
その中に王族が紛れているのは知っている。
契約の都合上、彼らに帝国を再建されると困るのだ。
ここで絶対に血統を絶やさねばならない。
斬撃の直撃を受けた皇帝は既に死んでいた。
物言わぬ屍となり、断面を晒しながら倒れている。
憑いていた悪魔も消滅していた。
渾身の一撃で魂が破壊されたのだ。
それほどまでの凄まじさだったのである。
「よ、し……やってやった、ぞ……」
少年は息を切らしながら呟く。
彼は片膝をついて疲弊し、剣を持つ手は震えていた。
蠢く粘液は少年の身体を包もうとしている。
表面にはエルフの顔が浮かんでは消えていた。
あまりの消耗で侵蝕されつつあるらしい。
少年が悪魔憑きの皇帝に勝利できたのは、粘液に含まれるエルフ達が要因だった。
皇帝に対する復讐心で共鳴し、本来なら不可能な規格の力を出すことができたのである。
それが名の不利を打ち消す勢いの強さに繋がった。
(これで帝国の崩壊は確実だろう)
首都が潰れて、そこに暮らす人々も大勢が死んだ。
さらに私が仕上げを施せば、国としての機能は麻痺する。
各地域の統制は取れなくなり、内乱による自滅の一途を辿るだろう。
ほどなくして帝国は滅亡する。
その後に残るのは何か別の国だ。
私が請け負った復讐は成功したことになる。
もっとも、これで契約が終わるわけではない。
まだ侵略戦争に関わった二勢力――王国と連邦が残っている。
これから私は帝国領土を抜けて次なる計画を進めるつもりだった。
基本的にやることは変わらない。
恐怖と絶望を与えながら破壊の限りを尽くし、最終的に中枢を抹殺する。
そうすることで国という枠組みを解体して滅亡に導くのだ。
今度について考えていると、唐突に少年が倒れた。
その力が急速に弱っていくのが見える。
皇帝に貫かれた傷からは、真っ赤な血が流れ出していた。
エルフ達の狂笑が室内に反響する。




