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エルフが絶滅した日。  作者: 結城 からく


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第87話 敗北

 懐柔の悪魔は、茨の結界にぶつかりながら落ちる。

 受け身も取れずに天井に激突した。

 裂けた四肢から血は噴き出している。


 私は彼女を観察する。

 力が体外へと漏出していた。

 全力を超えて戦い続けた反動である。

 魂が破損し、転生できずに消滅しようとしていた。

 きっと治癒も間に合わない。


 私は"懐柔"のそばに着地する。

 彼女は倒れたままこちらを眺めていた。

 攻撃のそぶりは見られない。

 先ほどまでの戦意は霧散していた。

 さすがの彼女も己の敗北を悟ったようだ。


 少し離れたところでは、少年が激闘を続けていた。

 "懐柔"は瀕死だが、操られた者達はそのままだ。

 持続型の術で縛り付けて、彼女の状態を問わず効力を発揮できるようにしているのだろう。


(自分が負ける可能性を考慮していたのだろうか)


 人々を操ったところで戦力にも人質にもなりはしない。

 能力の消耗を考えれば切り捨ててしまう方が効率的だった。


 懐柔の悪魔は、首を回して少年の戦いを見守っている。

 吐血しながらも、どこか満足そうな笑みを浮かべていた。

 その心境は読み取れない。


 私は懐柔の悪魔に此度の出来事について尋ねる。


「どうして帝国を支配して私に勝負を挑んだ。勝てないことは分かっていたはずだ」


「ハッ、あんたには分からなねぇよ。感情を、切り捨てまくった、最強の悪魔さんにはな……」


 懐柔の悪魔は、皮肉を交えて答える。

 どこか辛辣な響きがあったが、私に通じることはない。


 それに気付いた彼女は、深々とため息を洩らす。

 少しの間を置いて、少々の躊躇いを見せながら話し始めた。


「――自殺だよ。誰かを、巻き込みたかったんだ。ちょうどあんたが動き出したと聞いてね……絶好の機会、だと、思った」


「お前は古き悪魔の一柱だ。何に絶望して死にたくなっている」


「何にも絶望できないから死にたいんだよ。悪魔としての生に価値を見い出せなくなっちまった。あんたみたいなクソ真面目じゃないもんでね。契約なんて面倒なだけだ。人間だってどうでもいい」


 懐柔の悪魔は淡々と愚痴る。

 それは誰に向けたものでもない怨嗟であり、悪魔が抱く普遍的な悩みだった。


 力を重ねれば永遠の時を生きることができる。

 あらゆる感情を享受できるが、そうしていく中で飽きを覚え出す。


 退屈とは恐ろしい感覚だ。

 すべての可能性を否定し、存在を根底から揺るがしかねない。

 懐柔の悪魔も、その落とし穴にかかってしまったのだ。


 彼女はまた息を吐き出すと、はっきりとした口調で言う。


「圧倒的な力を持つ不条理な悪魔に殺される。それが、最期の望みなんだ……」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 別の物語の原初の錬金術師とは方向性が違いますが、 ペナンスもまた超然としていると感じました。 [一言] 続きも楽しみにしています!
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