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エルフが絶滅した日。  作者: 結城 からく


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第81話 反転満点

 室内のあらゆる物体が天井へと落下し始めた。

 すべてがひっくり返っている。


 私は空中に着地して難を逃れた。

 少年と悪魔憑きが滑り落ちていくのを横目に、浮遊する懐柔の悪魔を見る。


 彼女は真顔だった。

 先ほどまでの余裕が消え去り、明確な殺意を私達に向けている。

 少年の挑発的な言葉がよほど気に障ったのだろう。

 そこに彼女の根幹とも言える在り方が隠されていたのである。


 懐柔の悪魔を中心に空間が歪み始める。

 近くにある物体ほど歪みを許容できずに自壊していった。

 潰れて裂けた空間が軋みながらねじ曲がっていく。

 触れるだけで肉体を崩壊させるだけの力が集束している。


 懐柔の悪魔は重力を操ったわけではない。

 城そのものを物理的に回転させて、上下を逆にしたのだ。

 現在、この城は地面に突き刺さった尖塔によって支えられている状態だった。

 さらに"懐柔"を中心に特殊な力場が発生し、それらが巡り巡ってこの特異な現象を持続している。


 相当な力技だが、彼女ほどの悪魔なら不可能ではない。

 "懐柔"は数少ない兼ねる悪魔だ。

 本来の名は"嫉妬"であり、そちらでも有名であった。

 既に過去の名は克服したため、そちらを自称することは滅多にない。


 ただ、彼女の強さへの執念は未だに嫉妬心が根源となっているだろう。

 その衝動すらも"懐柔"し、己を滾らせる一因として体よく利用するのが彼女であった。


 私が城を囲うように張った封鎖防止の粘液は、部分的に破損していた。

 城の反転に合わせて綻びが生まれてしまい、そこを突かれたようだ。

 どうやら"懐柔"の術と干渉し合ってしまったらしい。

 おそらくはこれも狙いの一つに違いない。


 粘液は私が最も得意とする力で、汎用性はそれなりだが完全無欠ではない。

 本来の用途と異なる使い方をすると、その分だけ性能が落ちてしまうのだった。

 普段ならば気にならない程度の誤差だが、古き悪魔は私の能力の特性をよく知っている。

 そのため彼らはその誤差を利用してくる。


 空間を歪ませる"懐柔"に注目していると、城の外の気配に動きがあった。

 各地点に避難していた住民がこちらに殺到してくると、近くの者から窓を粉砕しながら室内に侵入してくる。


 敵意と歓喜を剥き出しにして笑う懐柔の悪魔は、私を睨みながら宣言する。


「帝都の人間は残らず篭絡してある。さあ、派手に殺し合おうぜ」

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