表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/107

第8話 氾濫

 矢と雨が交互に降り注ぐ中、私は軍隊の動きを観察する。

 彼らは遠距離攻撃に徹しており、今のところは接近する兆しがない。

 接近戦が圧倒的に不利だと理解しているのだ。

 妥当な対策である。


 悪魔の身体能力は、常人のそれとは比較にならない。

 軽い打撃で人体を粉砕するため、白兵戦が成立しないのだ。

 どれだけの数がいようと関係なかった。


 一方で遠距離からの攻撃なら数の利を活かすことができる。

 魔術と矢を交互に放って回避を難しくさせた上で、絶え間なく防御を強いるのだ。

 手本のような戦法であり、実際に軍ではこのやり方で指導されているらしい。

 弱い悪魔なら削り切れるので、実に有効な立ち回りである。


 もっとも、私には通用しない。

 復讐の悪魔とは理外の存在なのだ。

 一般の兵士にはきっと伝えられていないだろうが、作戦の工夫で仕留められるほど甘くはない。


 原則的に悪魔を殺せるのは、同じ悪魔のみなのだ。

 例外的な事例もあるが、頻発するものではないからこそ奇跡と呼ばれる。

 そして、この場において奇跡は起きようがなかった。


 凄まじい密度で降り注ぐ攻撃に対し、頭上の赤い盾は微塵も破損していない。

 このまま何世紀でも耐えられるだろう。

 無論、悠長に待つつもりはなかった。


 私は片手に赤い粘液を生じさせた。

 ふつふつと泡立つ粘液は溢れて大地にこぼれていく。


「一万二百三十八人……」


 兵士を数え終えた私は呟く。

 その間も粘液は足元を浸しながらも溢れ続ける。


 今から首都の兵士達を皆殺しにする。

 城を倒壊させた糸の刃を使うのが最も効率的だろう。

 回転させれば一網打尽である。


 しかし、それでは惨たらしさに欠ける。

 エルフ達が満足しないのは明らかだった。

 つまり極限の苦痛を伴う攻撃方法を模索しなければならない。


 あまり気乗りしないが契約は絶対だ。

 故に私は全力で遂行する。

 数多の経験は、この局面における最適解を囁いていた。

 私はただそれに従って力を行使すればいい。


 刹那、周囲一帯にまで溢れ返った粘液が不自然に波打った。

 すくい上げられるようにして形を変えていく。

 色や質感はそのままに、無数の人型になり始めた。

 細部まで観察すれば、人型の耳の長さに気付くことができるだろう。


 出来上がったのは数十人のエルフの像だ。

 像と言っても、ただの置き物ではない。

 エルフの浮かべる表情は殺意と憎悪に塗れていた。

 呼吸に近い動きをして身構えている。


 粘液のエルフ像には、此度の契約で得た魂を吹き込んでいた。

 内包していた彼らを解放し、疑似的に蘇らせたのである。


 とは言え、生前と同一の人格ではない。

 彼らの核となるのは怨嗟の心だ。

 すべての魂が混ざり合いながら、暴力の化身として成立していた。


「報復だ。存分に狂い殺すといい」


 私がそう命じると、赤い粘液の身体を得たエルフ達は憎悪に歪む叫びを上げる。

 そして、猛然と仇に突貫するのであった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 契約に従うために粘液で怨嗟を芯に呼び出すのか…すごい
[良い点] これまたどこぞのチート吸血鬼が内包する死の河の様な……さぞかし凄惨な殺戮ショーになりそうだ。 [一言] 続きも楽しみにしています。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ