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エルフが絶滅した日。  作者: 結城 からく


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第78話 その悪魔の名

 "懐柔"の言葉を受けて、私は思わず動きを止める。

 どこか優越感に浸る彼女を無言で注視した。


「…………」


「何だ。昔の名で呼ばれるのは嫌いかい? 過去の偉業を否定するなよ。犠牲者が泣くぜ」


 "懐柔"はわざとらしく言うと、こちらを挑発するように笑う。

 もっとも、この程度で動揺するほど若くなかった。

 私は全身から血を滴らせながら、表情一つ変えずに佇む。


 反応が芳しくなかったせいか、不意に"懐柔"が舌打ちした。

 彼女は苛立たしげに顔を曇らせると、室内で戦う悪魔憑きに向かって命令を飛ばす。


「うるせぇな。ちょっと止まれ」


 その一言で悪魔憑き達は停止した。

 突如として相手が止まったことで少年は困惑する。

 攻撃して殺害してしまえばいいと思うのだが、不可解な状況で判断に迷っているようだ。


 そんな彼に"懐柔"が尋ねる。


「よう、こいつが何の悪魔か知ってるか」


「……当たり前だ。復讐の悪魔だろ」


「ハハハ! 不正解! 大外れ! ……いや、半分合ってるのか。よく分からんな。とにかく完璧な答えじゃない」


 "懐柔"は愉快そうに手を叩く。

 しかし、目はぞっとするほど冷え切っていた。


 私は彼が何を話すつもりなのか察していた。

 しかし、それを止める気はない。

 打ち明けられたところで痛手にはならない上、少年にはいつか話そうとしていたのだ。

 その時期が少し早まっただけである。


 懐柔の悪魔は、その場に座り込みながら話を続ける。


「少年。上位悪魔の定義を知っているかい?」


「確か名前を支配するか、克服した強い悪魔だったような……」


「その通り。よく教育しているじゃないか」


 "懐柔"が私を一瞥した。

 少年の知識に感心しているようだ。


 悪魔に関する常識は移動中に説明している。

 成り行きとは言え、少年には悪魔の力を譲渡したのだ。

 彼にはその根源を知る権利が当然ながらあった。


 懐柔の悪魔は床に寝転がりながらも、真摯な口調で語る。


「悪魔とは契約を重ねることで力を増す存在だ。その中でも、己の名に縛られなくなった者は別格とされている。しかし、本来の意味での上位悪魔とは、名の支配だけが条件だった」


「え? でもペナンスは克服した悪魔だろ。条件が変わったのか?」


「だからこいつは異常なんだ。上位悪魔を再定義せざるを得ないきっかけを作った」


 懐柔の悪魔が私を指差した。

 少年はまだ話の本筋が見えないため反応に困っている。


「そもそも考えてみろよ。名を克服するって行為そのものがおかしくないか? 自分自身を否定する悪魔なんて矛盾している。なあ、そうだよな旦那」


 早口で言い切った"懐柔"は、親しげな風に私を呼ぶ。

 私は小さく嘆息を吐くと、少年に新たな情報を提示した。


「歴史上、私は初めて名を克服した悪魔だ」


「それだけじゃねぇだろ? あんたの真の正体を可愛い弟子に教えてやれよ」


「――私は、名を兼ねる悪魔だ」


 今まで意図的に伝えなかった真実を、私は少年に告げた。

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