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エルフが絶滅した日。  作者: 結城 からく


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第72話 捧げる覚悟

 奮起の悪魔の死を確かめた私は振り返る。

 片割れの悪魔の首が、少年の一閃で斬り飛ばされたところだった。

 粘液の刃は恐るべき切れ味を発揮し、魔術的な防御を貫通したのである。


 死んだ悪魔はこちらも顔見知りだった。

 司る名は"扇動"で、民衆を煽って攻撃行為へと走らせる悪魔だ。

 心理操作を得意としているが、直接的な戦闘能力は同格の中位悪魔の中でも低い。

 したがって"復讐"の力を十全に扱う少年には及ぶはずもなかった。


(既に悪魔殺しの貫禄が出ているな)


 私は自然体の少年を観察する。


 もはやこの程度では大きな動揺も見られない。

 彼も元は平均的な人間だ。

 剣術の鍛練を積んでいたが常識の範疇で、特殊能力を持たない平凡な出自であった。


 そんな彼の唯一にして最大の武器は強靭な精神力だ。

 死を恐れずに立ち向かう蛮勇と、地獄の苦しみを乗り越えるだけの忍耐。

 それらを駆使して私の能力を引き継いで、新たな才能へと発展させたのである。

 残りの命は僅かだが、だからこそ覚醒したのかもしれない。


(破滅の運命を辿ることはなさそうだ)


 悪魔の力を借りた者は、大抵が碌な末路を歩まない。

 その点、少年は自制心がよく働いている。

 当初から意識して観察してきたが、年齢に不釣り合いなほど落ち着いていた。

 悪魔の力を得てからそれが顕著になっている。


 一方で、芯の通った殺意は未だ健在だ。

 絶対的な復讐の意志である。

 悪魔の能力が研ぎ澄まされるほどに、その漆黒の輝きも強まりつつあった。


 穏やかな外面の裏には、煮え滾る衝動が渦巻いているのだろう。

 それを傍目には感じさせないのが、状態の深刻さを物語っている。


 少年は"扇動"の頭部を剣で破壊すると、魂が霧散したのを確認して顔を上げる。

 粘液の兜をずらした彼は、あるかないかの笑みを覗かせた。


「さすがペナンスだ。そっちは上位悪魔だったのに、もう倒したんだな」


「この男と私では積み上げてきたものが違う。それだけだ」


「格好いいなぁ。憧れるぜ」


 少年は無邪気にそう言う。


 彼の双眸は、ぎらついた色を発散していた。

 理性的な殺意が充満し、その矛先を求めている。


 少年は悪魔殺しに快感を見い出していた。

 その本音を自覚し、抑え込みながら目的に向かって進んでいる。


 彼の異変に気付きながらも、私にできることはない。

 これは本人が向き合って解決すべき部分だ。

 少年ならば、上手く折り合いをつけて進めるだろう。

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