第7話 復讐心
私は城の跡地に着地する。
濃密な血の臭いが漂うそこに佇んでいると、間もなく頭上から矢の雨が降ってきた。
私は赤い巨大な盾を生成し、それで残らず防ぐ。
攻撃が止まったところで矢の飛んできた先を注視する。
街の方角にて、陣形を組んだ兵士達が待ち構えていた。
総勢で数千人程度か。
もしかすると一万人にも届くかもしれない。
街でエルフ達を相手に殺戮を繰り広げていた者達だ。
城に侵入した兵士達はごく一部の先遣隊である。
まだ大多数が生き残っている状況だった。
弓の部隊は再び一斉射撃を行った。
矢の雨に対し、私は先ほどと同じ要領で防御を選ぶ。
続けて魔術が飛来してきたので、盾を変形させて凌いだ。
こちらが傷付くことはないが、金槌で均した城の跡地が再び荒れ果てていく。
(全力で攻撃している。悪魔の降臨に焦っているのか)
伝わってくるのは恐怖や怯え。
彼らの動揺も分かる。
この局面でまさか悪魔が登場するとは思わなかったのだろう。
本来はエルフ達を蹂躙するだけで終わるはずだった。
だから侵略に関わる三国のうち、帝国軍だけが首都にいる。
他の二国の力を借りるまでもないと判断したのだ。
それは慢心ではない。
純然たる事実であった。
エルフ族には優秀な魔術の使い手が多いが、絶対数が少ない。
加えて閉鎖的な気質が影響して、他文化を取り入れない傾向にある。
白兵戦を不得手とする者も多い。
技術力や規模で上回る強国が結託すると、格好の獲物となるのだった。
その結果が蹂躙である。
唯一の誤算は、エルフの女王が悪魔と契約を結んだことだと言えよう。
エルフは太古より絶対に他種族を頼らないことを信条としている。
さらには悪魔を筆頭とする邪悪な存在を嫌っていた。
故に契約する可能性など皆無だった。
だからこそ、三国は強気で侵略できた。
(それだけ許せなかったのだろう。女王の覚悟が常識を打ち破ったのだ)
血統が途絶えてでも一矢報いる。
発言するだけなら簡単だが、実行に移すのは困難極まる。
葛藤は当然あったものの、意地と誇りと復讐心が凌駕した。
「エルフは悪魔に魂を売った。だが、それだけの価値はある」
否、価値はあったのだと思わせなければならない。
これこそが私の存在理由。
復讐の悪魔という名に課せられた宿命であった。