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エルフが絶滅した日。  作者: 結城 からく


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第69話 不条理

 私と少年は城内を進んでいく。

 急ぐことはない。

 まるで散歩でもしているかのような速度だ。


 既に粘液の濁流が城内を浸蝕し、そこに宿るエルフ達の魂が暴走していた。

 虐殺の限りを尽くしているのは能力を通じて伝わっている。

 放っておけば彼らがすべてを終わらせる。


 きっと少年もそのことを理解しているのか、先ほどからずっと険しい顔をしている。

 彼なりにこの惨劇について考えているようだ。


 遠くから反響する悲鳴は、帝国の兵士や使用人のものであった。

 彼らは惨たらしく殺されていく。

 何か罪があったのかと問われれば、きっと無いと答えるしかない。

 兵士などはエルフの国の侵略に加担したかもしれないが、ここまでの報いは過剰すぎるだろう。


(しかし、世界とは不条理なものだ。誰もが平等に扱われるわけではない)


 善人が虐げられて、悪人が幸福を享受する。

 そういったことが当然のように起こり、誰も覆すことができない。

 世界には報われない物語が埋没し続けている。

 現在、城内にいる者達はまさにその一例であった。


 私はそんな人間に同情することはない。

 不条理な世の中を許容し、そういうものであると理解しているためだ。

 何より私自身が不条理の体現者である。

 超常的な存在である悪魔すらも虐殺することができる。


 少年には説明していないが、私は悪魔の中でも例外に位置する者だ。

 様々な面で逸脱し、その立場を利用して恣意的な復讐代行を請け負っている。

 善悪の判別を行うなら、私は間違いなく悪に該当するだろう。


「なあ、ペナンス」


 思考に割り込むようにして少年が話しかけてくる。

 彼は通路の端に転がる死体を眺めていた。

 その横顔はどこか考え込むような色を見せている。


 私は余計な思考を脇に置いて応じた。


「何だ」


「人間って何のために生きているんだろうな。こんなにあっけなく死ぬのに」


 少年は根源的な疑問を口にした。

 深く思い悩んでいる様子はないので、ふと気になっただけだろう。

 圧倒的な虐殺を目の当たりにして、命について振り返ったのかもしれない。


 私は遥か昔に辿り着いた真理を少年に聞かせる。


「意味などない。その中で模索するのが人間なのだろう」


「……つまりどういうことだ?」


「自由に生きればいい」


「ペナンスは自由に生きているのか?」


「復讐の契約こそが私の使命であり生き甲斐だ。大義名分を掲げているが、端的に言えば趣味に近いのかもしれない」


 私は自虐を交えて述べる。


 悪魔に限った話ではない。

 使命や役割など所詮はきっかけに過ぎなかった。

 何者だろうと代わりがいる世界で生きるには、己を満たす娯楽が必要なのだ。


 そう、善も悪もすべては娯楽である。

 意味など存在しないのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 今話もありがとうございます! >「なあ、ペナンス」 >「何だ」 >「人間って何のために生きているんだろうな。こんなにあっけなく死ぬのに」 >私は遥か昔に辿り着いた真理を少年に聞かせる。 …
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