表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エルフが絶滅した日。  作者: 結城 からく


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

68/107

第68話 怨嗟の濁流

 現代の悪魔と別れた私と少年は、いよいよ城へと侵入する。

 固く閉ざされた門を破壊して室内を窺う。


 その先で待っていたのは、整列した数百の兵士達だった。

 扇状に陣形を組んだ彼らはクロスボウを構えている。

 外の悪魔達と話しているうちに攻撃態勢を整えていたらしい。


 指揮官らしき男が腕を下ろすと同時に、数百の矢が一斉に放たれる。


「ほう」


 私は粘液を鉈に変えると、命中する矢のみを打ち払った。

 少年は粘液の鎧を固めて防御する。


 優れた知覚を得た彼だが、咄嗟に武器を出して弾くほどの余裕はまだないようだ。

 こればかりは実戦経験の差である。

 しっかりと防御できているので、及第点は優に超えているだろう。


 矢の一斉射撃は、城の入口を穴だらけにして倒壊させた。

 ところが、肝心の私達には傷一つとして付けられていなかった。

 その結果を目の当たりにした兵士達は驚愕し、慌てて次の矢を装填しようとする。


 私は床に落ちた矢の一本を拾い上げる。

 鏃に魔術的な強化が施されていた。

 人間に付与できる力の大きさではないので、帝国に属する悪魔の仕業だろう。


 ただ、私はおろか少年の鎧すら貫けない威力である。

 付与した悪魔は下位か中位に違いない。


(いよいよ強者には見放されたようだな)


 私は帝国の戦力を分析しつつ、体内の粘液を解放した。


 濁流と化した粘液は城の奥へと広がり、第二射を試みる兵士達を押し流していく。

 転倒して溺れる彼らは、水面に浮かび上がるエルフの怨念に狙われた。

 兵士達は羽交い絞めにされて溺死に追い込まれるか、奪われた武器で滅多打ちにされる。


 勢い付いたエルフの魂は、粘液の軍勢となって城内を蹂躙する。

 壁や階段を伝って二階へと進出すると、逃げ惑う兵士達を追跡し始める。

 悲鳴と怒声と歓喜の声が入り交じりながら反響し、室内の先へと移動していった。


 待ち構えていた兵士達はあっという間に壊滅した。

 城内は赤黒い粘液に宿るエルフの侵略で汚染されて、破滅の一途を辿るのであった。


 その様を見る少年は呆然と呟く。


「ペナンスの力は恐ろしいな……あの数が一瞬かよ」


「相手の規模が百倍でも千倍でも変わらない。復讐心とはそれだけ強靭なのだ」


 故に大いなる責任が伴う。

 私の能力は世界すらも潰しかねない。

 自制心を働かせなければ、すべてを終焉に導いてしまう。

 たとえ時代遅れで融通が利かずとも、現在の主義を変えるつもりはなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ