第67話 現代の悪魔
その場にいる悪魔達が、最初の者に続いて次々と平伏する。
彼らは帝国の城の前で私に頭を下げていた。
城内にいる兵士が、ぎょっとした様子でこちらを眺めている。
蚊帳の外となった彼らにとって、追放された悪魔達が"復讐"に首を垂れる光景は衝撃的だろう。
(畏敬の念か。悪魔が悪魔にひれ伏すとは)
私の価値観ではありえないこと。
悪魔は身分や階級から解き放たれているものであるためだ。
都合上、能力別に位を設けているが、それで上下関係が決まるわけではない。
故に目の前の悪魔達がひれ伏したことに驚きを禁じ得ない。
彼らが立ち上がったのを見計らって私は告げる。
「私は異端だ。憧れの感情を持つな」
「とんでもない。あなたの進む先にこそ、悪魔の本質があると信じておりますので」
代表の悪魔が即答する。
爛々とした双眸は、ある種の狂気を備えていた。
彼は背後の城を気にしながら声を落として語る。
「実を言いますと、我々の大半はあなたと会うために帝国と契約したのですよ」
「殺されることは危惧していなかったのか」
「それも承知の上ですとも。まあ、良い具合で離脱できたので好都合でした」
彼らの中では、契約より私と出会うことが優先らしい。
つまり現在の状況こそが理想の形なのだ。
己の追放すらも都合が良かったのだと話しているのだった。
(……若い悪魔の考えることはよく分からないな)
私は仄かに頭痛を覚えつつ、理性的に彼らを諭す。
「悪魔という存在は、孤独を往かねばならない。己の背負う名をゆめゆめ忘れないことだ」
「ありがたいお言葉に感謝します」
彼らは深々と礼をすると、私達のそばを通り抜けて歩き出した。
「我々は連邦に向かいます。あなたの復讐劇が円滑に進むように手配しましょう。再会の時をお待ちしております」
そう言い残して、悪魔達は姿を消した。
一連のやり取りを見守っていた少年は、腰に手を当てて呟く。
「変な奴らだな」
「まったくだ。悪魔の在り方から逸脱している」
「ペナンスはあいつらも消滅させるのか?」
「彼らの成長次第だ。人間を過度に弄び、世界を乱すのなら敵対するだろう」
そう述べながらも、私の中には疑問が生じていた。
彼らこそ現代の悪魔だ。
時に契約より重い動機を持ち、そのために暗躍する。
孤高より徒党を好み、同志を募って目的を為す。
考えてみれば効率的である。
別におかしなことではない。
そもそも私の持つ悪魔の在り方という概念が古い恐れさえある。
時代錯誤な復讐の悪魔こそが、排除されるべき存在なのかもしれない。




