第66話 見通す悪魔
感知を終えた私は悪魔達に問う。
「なぜ私達の到来を待っていたんだ」
「どうせなら皇帝に嫌がらせをしようと思いまして。あなたに情報提供をしたことが伝われば、きっと怒り狂うのではないですかね」
先ほどから代表して答えるその悪魔は、意地の悪い顔で言った。
冗談めかしているが目は本気だ。
契約破棄されたことを根に持っているらしい。
それに気付いた少年は胡乱な顔でぼやく。
「あんた達、性格が悪いな」
「何と言っても悪魔ですから。愚かな人間の足掻く様は大好物です」
「ペナンスはこんなこと言わないのに」
「名を克服した悪魔は本能に囚われません。我々のような気質が大多数なのですよ」
その悪魔は、私を一瞥しながらそう述べた。
確かに彼の説明は正しい。
悪魔は人間を弄ぼうとする者が大多数を占める。
純粋な善意から力を貸す者はごくまれだ。
莫大な代償を要求する私も、人間からすれば厳しい部類だろう。
悪魔は私の前まで歩み寄って深々と一礼する。
「噂の"復讐"とお会いできて光栄です」
「対面して喜ぶような存在ではないと思うが」
「何をおっしゃいますやら。上位悪魔と話ができるのは貴重な機会です。憧れている者も多いですよ」
その悪魔は嬉しそうに語る。
後ろの面々も同じように畏怖や尊敬の眼差しを私に向けていた。
明らかに好意に近い感情が多く、その反応に戸惑いを覚える。
(変わり者だな)
名を克服した悪魔は忌み嫌われる常識に近い。
悪魔の本懐から外れているからだ。
しかし、最近だと若い悪魔の中では克服に抵抗がない者もいるらしい。
そういった傾向もあると聞いたことがあったが、実際に目にするのは初めてだった。
代表の悪魔は一歩下がると、穏やかな様子で微笑する。
「では、我々はこれにて失礼します。巻き添えになって消滅しては元も子もありませんからね」
「……まるで私がすべてを破壊すると言いたげだな」
「違うのですか?」
「展開次第だ」
そう答えると、悪魔は笑みをゆっくりと深めた。
彼の双眸は異様な光を湛えている。
強い興味と関心の色だった。
「私は"看破"の悪魔です。あなたのことはそれなりに把握しているつもりです」
「…………」
「残念ながら奥底まで見通せるわけではありませんが、上から二層くらいは覗けましたよ。とても良い体験になりました。ありがとうございます」
悪魔は震える声で言いながら平伏するのだった。




