第6話 撲殺悪魔
落下する私は、崩れゆく城の下敷きとなった。
頭上の建材を持ち上げて這い上がる。
そこに広がるのは瓦礫の海だった。
かつて城があった地は残らず破壊されて、直前までの面影すら残っていない。
倒壊に呑まれた兵士の大半は死んだだろう。
その中でも這い上がってくる者達がいた。
よほど幸運だったか、魔術で防御したようだ。
彼らは私を目にすると、恐怖に顔を歪ませる。
そこから仲間の亡骸を捨て置いて逃げ出そうとした。
敵わないと悟り、命惜しさに侵略行為を放棄したのである。
(懸命な判断だ)
常人と悪魔には種族的な隔たりがある。
気合や努力で対抗できるものではなかった。
ああやって逃げるのが正解なのだ。
とは言え、彼らが去るのを大人しく見守るわけにもいかない。
私は糸になって垂れる刃を操作する。
糸は脈動しながら柄に引き戻されて、収縮を繰り返しながら金槌に変貌した。
小ぶりな見た目だが強度は圧倒的だ。
如何なる物質だろうと打ち砕けるだろう。
金槌を手にした私は、周囲の生命を探知する。
逃げる者や未だ瓦礫の下敷きとなっている者を等しく捕捉した。
その数は三十二。
動ける者に限ると半分以下になる。
私は視線を巡らせて、真っ先に逃げ出した兵士の背中に注目する。
片脚を引きずるその兵士に背後から跳びかかり、後頭部に赤い金槌を振り下ろした。
「ごぇっ」
兵士は奇妙な声を上げて転倒した。
後頭部が破裂し、砕け散った中身が四散する。
私は念のための追撃を打ち込む。
それで頭部が完全に消滅した。
殺害の瞬間、体内を巡るエルフの魂が歓声を焚く。
拍手喝采とでも言うべき反応であった。
「惨殺を好むか……」
驚きはない。
いつものことだ。
被害者は復讐できる立場になると残酷になる。
受けた仕打ちを何十倍にもして返したくなるのだ。
それが人間の本質であった。
種族が違えど関係ない。
私は復讐心から生まれた悪魔だ。
共感はできないものの、心境の理解は可能である。
数え切れないほどの契約を経て、復讐が連鎖することを知った。
だから私は代償を重くする。
それ以上の報復が起きないようにしているのだ。
エルフ族は此度の契約で絶滅した。
復讐対象の三国は反撃したくともできない。
感情の矛先は、残された私に向けるしかなかった。
その後も私は逃げ出そうとする兵士達を撲殺していく。
悲鳴を上げる彼らを容赦なく始末した。
エルフ達の喜びを感じながら、黙々と金槌を叩き付ける。
間もなく瓦礫上の兵士は残らず死んだ。
あとは生き埋めになっている者だけである。
私は上空に移動すると、巨大化させた金槌で城の敷地全体を叩き潰した。
金槌を消すと、散乱する瓦礫の隙間から血肉が溢れ出している。
ただの一撃により、瀕死だった兵士の命は踏み躙られたのであった。