第56話 歓迎者
城までの道を歩いていると、前方から一人の男が来た。
涼しい笑みを湛える男は、小綺麗な貴族服に身を包んでいる。
彼はどこか不吉な気配を漂わせていた。
少し距離を置いて立ち止まると、男は洗練された動きで恭しく礼をする。
「お久しぶりですね」
「何の用だ」
「帝都に侵入した復讐の悪魔を止めに来たのです。僕はこちらの陣営ですので」
男は堂々と宣言した。
細かな表情や仕草には演技臭さがあるが、それでも見惚れるような佇まいには違いない。
先入観のない者が見れば、さぞ美しく感じるのではないか。
しかし、この男は私を止めるのだと言った。
つまり敵対関係である。
仲良く話をできる間柄ではなく、これから殺し合うということだった。
私は周囲を示しながら男に問う。
「やけに警備が手薄だが」
「どういった展開であれ、城下街は滅びますからね。守る義理はないということですよ。契約内容にも入っていませんし。どうせあなたはすべてを殺戮する。そうですよね?」
「…………」
私は茶化すような言葉を無視する。
男の口ぶりには明確な悪意が滲んでいた。
こちらの反応を見て楽しんでいるのだ。
したがって反論することが間違っている。
何も言わず、何も感じないのが最も正しい。
一方で少年は、粘液の鎧と剣を形成しながら構えていた。
既に臨戦態勢に入っており、状況次第で攻撃を仕掛けるだろう。
「ペナンス、あいつも悪魔だな」
「そうだ。冠する名は――」
「失墜です。他者の築き上げた力を突き崩すのが大好きです、よろしくお願いします」
そう言って男――失墜の悪魔は少年に一礼する。
彼は性格が悪い。
本人も自覚するどころか、それを誇張する言動が目立つ。
慇懃無礼な態度も半分は演技ではない。
彼に崇高な信念な目標はなく、ただ邪魔をして破壊することに愉悦を感じるのが生き甲斐だった。
私は体内の粘液を調整しながら、失墜の悪魔に切り出す。
「お前が権力者と契約するなんて珍しいな」
「普段ならまず敵対するのですがね。あなたを引きずり落とす好機なので、信条を破ってみました」
失墜の悪魔は誤魔化すことなく答えた。
爽やかな笑みを浮かべているが、その実態は腹黒である。
しかもそれを隠そうとしないのが彼の性格だった。
もっとも、ここで安い挑発に乗るほど私も若くない。
向こうも悪ふざけで言っているだけだろう。




