第55話 素質
大通りを進んでいくも、やはりほとんど無人だった。
たまに建物内に人間の気配を感じるが、たぶん悪魔とは無関係だ。
きっと緊急事態に乗じて盗みを働いているのだろう。
付近に悪魔は潜んでおらず、かと言って何らかの術が張られているわけでもない。
私達を招くように道が続くのみだった。
いつまで経っても攻撃が始まらない。
(やけに大人しいな。相手の作戦が一向に読めない)
悪魔達は城に集結しているようで、先んじて仕掛けてくる者はいなかった。
ここで動いてしまう短気な悪魔はとっくに私を襲って消滅しているのだろう。
それが道中の刺客だったのだ。
「この辺りは、安全だ……悪魔はいない、よな?」
少年は独りで呟きながら歩いている。
纏う粘液による感知を最大限に利用していた。
ほとんど私と変わらないだけの情報を手に入れているのではないか。
少年は、状況に後押しされる分だけ成長する性質らしい。
いつ悪魔に攻撃されるか分からないという緊張感を受けて、精神を研ぎ澄ましている。
流動する粘液は、あらゆる局面に対応できるよう絶えず形を変えていた。
(能力の扱う才能で言うなら、私を軽く凌駕しているのではないか)
渡した能力は復讐の悪魔の一割だ。
決して多くない分量ながらも、少年は効率よく運用している。
自らの足りない部分を補うように展開しており、万全な態勢を保っていた。
一方で私は、粘液を使うこなすのにそれなりの年月を要した。
今はさすがに自由自在だが、習得した当時はかなり難儀したものだ。
少年のように短時間ではとても扱えなかった。
(悪魔になれば、さぞ強い存在になるだろう)
私は隣を進む少年を一瞥して思う。
彼は紛れもない適性を宿していた。
能力を扱う感覚に加えて、強固な精神力を兼ね備えている。
悪魔の核となるに相応しい心である。
その鋭い眼差しは城を注視していた。
少年の意識は、既に皇帝を射程に収めているようだ。
彼は復讐者だった。
民に過酷な暮らしを強いるこの国を恨み、自らに降りかかった災難を呪い、その報いを与えようとしている。
少年の行動の正当性はともかく、込められた想いは本物である。
過去の清算と未来のため、この国の在り方を塗り変えようとしていた。
そういう意味では、革命家の側面も併せ持っているのかもしれない。