第53話 帝都
それから二日後。
私達は遠くにて帝都の外観を捉えた。
時刻は昼過ぎで、今日中に着く距離である。
防壁に囲まれた都市の中央に城があった。
何重にも張られた魔術は過剰なまでの密度だ。
普段からここまで展開しているとは思えない。
こちらの到来を見越した対処なのだろう。
私なら容易に破壊できる程度の防備だが、何もやらないよりは良いと判断したのか。
「…………」
私は無言で帝都を注視した。
知覚能力を駆使して内部の様子を探っていく。
複数の結界で誤魔化されているため、正確な状況までは分からないが、おおよその戦力を知ることができた。
(多数の悪魔の気配を感じる。城で待ち受けているのか)
帝都に辿り着くまでに襲撃されるかと思っていた。
しかし実際は散発的なものばかりで、組織的な行動は見られなかった。
悪魔は個人主義な者が多い。
今回は展開が早く、余計に結託できなかったのだろう。
そうして結束を固められないままこの局面に至ったものと思われる。
(下手な行動を取るより、本拠地となる帝都で防備を密にするのが妥当だと考えたに違いない)
或いは、私との戦力差に絶望した悪魔達にはやる気がないのかもしれない。
考察を進めていると、隣で黙り込んでいた少年が真面目な表情で切り出した。
「なあ、ペナンス」
「何だ」
「皇帝を殺した後、王国と連邦に行くんだよな」
「そうだ。エルフ族を侵略した三国の滅びが契約内容となっている」
私が答えると、少年がこちらを向いて頭を下げた。
彼は決意に満ちた顔を上げて懇願する。
「俺も付いていっていいか」
「残る二国については復讐の範疇から逸脱していると思うが」
「別に恨みなんかない。エルフの復讐がどう終わるか見守りたいんだ」
答える少年の目を私は凝視した。
その真意を見抜くために心の奥底まで覗き込む。
(……別に契約違反ではないな)
少年と交わした契約を思い返す。
力を要求した彼は、然るべき代償を支払っている。
そもそも契約に復讐が絡んでおらず、同行を拒絶する理由はなかった。
少年の寿命は僅かだ。
残る時間は好きに使わせるべきだろう。
「分かった。帝国戦で生き延びたら自由にするといい」
「嬉しいけどなんで不穏なことを言うんだよっ」
少年が背中を叩いてくる。
その親しげで若い反応は、私にとっては新鮮で懐かしいものであった。