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エルフが絶滅した日。  作者: 結城 からく


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第48話 少年の進歩

 その日の午後は移動しながら鍛錬を実施した。

 少年たっての希望で、悪魔の能力を使いこなすのが目的である。


 今の状態でも十分なのだが本人は不満らしい。

 曰く、気を抜くと意識が飛びそうになるという。

 粘液に含まれる怨念に囚われかけているのだろう。


 少年はなんとか適応しているが、その分だけ能力が浸透していた。

 受ける影響も大きいようだ。


 彼の懸念は至極真っ当であった。

 悪魔の力はそれだけ危険なのだ。

 注意不足はあっても、注意のしすぎはない。


 鍛錬終了後、少年は粘液を手の上で弄びながらぼやく。


「それにしても、これで能力の一割って本当かよ。ペナンスってとんでもない悪魔なんだな」


「さらに力が欲しくなったか」


「いや、ここからは俺が努力する番だ。借り物ばかりで満足してたら意味がない」


「良い心がけだ」


 褒めつつも、私は仄暗い心境を自覚する。


 少年は取り返しの付かない領域にいた。

 その背を押したのは他でもない私だ。

 彼の慎重な考えや向上心は素晴らしいが、それ故に未来を奪ってしまったことを痛感する。


 もっとも、後悔はしていない。

 この程度で心を痛めるのなら、悪魔などやっていられなかった。

 契約は私の選択だが、同時に少年の選択でもあるのだ。

 それを強く悔いるのは、彼の覚悟を踏み躙ることに等しい。


 悪魔の力で破滅する者を何度も見てきた。

 少年についてはあまり心配していなかった。


 そもそも彼の人生は残り僅かだ。

 きっと驕り高ぶる暇もなく死を迎える。


(残る命をどう過ごすのだろうか)


 隣を歩く少年を見て考える。


 彼の目的は皇帝の殺害だ。

 この国の在り方を憎み、その報いを受けさせようとしている。

 私がエルフと交わした契約とも一致しているため、共闘して攻め込むことになるだろう。


 刺客の悪魔がまだいるはずだが、大した問題ではない。

 我々なら蹂躙が可能だ。

 どれだけ強大な悪魔が現れようと関係なかった。


 使役の悪魔が消滅したという報もすぐに知れ渡るだろう。

 これによって新たな悪魔が契約目的で帝国に近付くことが減る。


 落ちぶれたとはいえ、“使役”は上位悪魔だった。

 これまでにも下位や中位も次々と犠牲となっている。


 悪魔は契約に貪欲だが、存在の消滅は避けようとする。

 そんな彼らにとって、私は忌み嫌う大敵であり、関わりたくない禁忌だった。

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