表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エルフが絶滅した日。  作者: 結城 からく


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

42/107

第42話 契約する覚悟

 使役の悪魔の本気を感じ取った一方で、場に激しい怒りが渦巻いていた。

 殺意や狂気も混ざって凄まじい様相を呈してる。


(誰だ)


 ここにいる者で何らかの感情を発せる者は限られていた。

 操られる騎士達は関係ない。

 私自身の感情にも揺らぎはなく、使役の悪魔は喜びと憎しみを持つが察知した感情とはまた違う。


(これは、まさか)


 私は視線をずらし、大地を転がる粘液の殻に注目する。

 中にいる少年が渦巻く激情を焚いているのだった。

 私は悪魔特有の感覚で彼の心境を理解する。


 少年は何もできない自分を憎悪していた。

 そしてどこまでも不条理な世界を呪っている。

 きっと昔から漠然と感じていたのだろう。

 知らぬ間に蓄積されたその想いが、ついに臨界点を超えて爆発したのだ。

 突き抜けた憤怒は死の恐怖すら掻き消して、少年の殺意と狂気を駆り立てている。


 決して共感できない感情だが、情報として解釈することは可能だった。

 少年の内心を知った私は、ほんの僅かに逡巡する。


(なるべく平穏な人生を歩んでほしかったのだが……)


 しかし、これは私個人の願いだった。

 少年の望みではない。

 彼の心を軽視するのは侮辱にあたるだろう。

 湧き上がる激情は本物だった。

 殻の中に閉じ込められた少年は、狂いかねない衝動に苛まれている。

 それに応じることができるのは私だけだ。


 だから私は少し声を張って粘液の殻に話しかける。


「己の無力さを恨んでいるな。さぞ悔しいだろう」


「おい、誰に喋りかけてやがる」


「それは真っ当な感情だ。何も恥じることはない。誰だって打ちのめされるものだ」


 私は使役の悪魔を無視して語りかける。

 圧し掛かる騎士の重みが増すも、何ら関係なかった。

 ここでやるべきことは既に決まっている。


「無力な己を痛感して何を望む。そのまま歯噛みして耐えるのも正解だろう。この場は私が解決できる。抱えた衝動は未来の成長へと繋がるのだから、何も間違っていない」


「あんた、この状況を分かって――」


「もし今、足りない力を渇望するのなら。代償を覚悟して宣言するといい」


 勧誘と拒絶の言葉を重ねていく。

 どちらに揺らぐかは本人次第であった。


「私は決して強制しない。自分で選択するのだ。それでも修羅を進むのなら、道筋は私が示そう」


 そして静寂が訪れた。

 張り詰めた空気の中、殻の中からこもった声が答える。


「――力だ。悪魔に負けない力を俺にくれ。対価は何でも払う」


「契約成立だ。絶望と苦痛を味わえ」


 私は冷酷に告げる。

 その瞬間、粘液の殻が内側で燻る少年に浸透していった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 今話もありがとうございます! [気になる点] ああ、やっぱり……。 願わくば、高槻涼とジャバウォックの関係の様になって欲しいものだが……。 [一言] 続きを気にしながら待ちます。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ