第41話 消滅宣言
私は圧し掛かる騎士達を観察する。
是が非でも退かないつもりのようだった。
使役の悪魔に魂まで縛られているのだ。
抵抗できず、ただの操り人形と化している。
(膂力では敵わないな。とても動かせない)
少し身じろぎするするも、騎士達は懸命に押さえ付けてきた。
その力は常人の域を超えている。
人体の限界を無視して拘束しにかかっているのだった。
遠くに立つ使役の悪魔は、余裕ぶった調子で語る。
「――復讐の悪魔と言えば粘液操作による攻撃が有名だが、実際に厄介なのは高い不死性である」
「知欲の悪魔の言葉か」
「ああ、そうだ。殺し合う時の助言を求めたら、懇切丁寧に説明してくれたよ。あんた嫌われてるんだな」
使役の悪魔が嘲るように答える。
彼は大鎌を肩に担いで笑みを深めた。
「あんたは不死身だ。普通の悪魔なら即死する傷でも平然と動きやがる。能力の特性というより、異常な精神力で成立させているんだろう。そこで俺は考えた」
言葉を区切った使役の悪魔は、勿体ぶるように俺を見る。
彼は悪意に満ちた表情で宣告する。
「ここであんたを百年ほど拘束し続ける。復讐対象の三国が代替わりするまでだ。復讐の契約が不履行になって萎えたあんたの魂を消滅させてやるよ」
「可能だと思っているのか」
「やるんだよ。退屈だろうが待ってやるさ。あんたを消滅させりゃ、俺の格も跳ね上がる。使役の悪魔は最強だってなァ」
使役の悪魔は大鎌を回しながら笑い飛ばす。
どうやら本気らしい。
持久戦に持ち込み、行動できない私を死に追いやるつもりのようだ。
(存在の消滅か。狙われるのは久しぶりだ)
ただ殺そうとする者は数え切れない。
しかし、根本からの抹殺を企む悪魔は滅多にいなかった。
記憶や人格を失う消滅は、悪魔の中でも禁忌の行為にあたる。
それを試みた時点で如何なる弁明も許されず、自身が消滅する危険性を抱えて挑まねばならなかった。
使役の悪魔は遠方から私を眺めて嘲笑う。
「安心しな。あんたを攻撃することはない。傷付けると復讐の力で強くなっちまうからな」
「…………」
騎士達に攻撃させず、拘束するだけに留めている理由も判明した。
徹底して私の強みを打ち消す戦法を考えているらしい。
いつの間にか周囲一帯を結界が包囲していた。
ただの魔術ではなく、使役の悪魔が展開したもののようだ。
これによって私の力がさらに低下している。
使役の悪魔は、私への報復のためだけに様々な能力を習得していた。
百年の無力化も伊達ではない。
彼の執念は評価に値する領域のものである。
もし私が席を埋めていなければ、復讐の悪魔になっていたのではないかと思うほどだった。