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第4話 その正体

 私は城内を歩く。

 赤い鉈からは滴っていた。


 これは加害者の血だ。

 彼らはエルフという存在を踏み躙った。

 その報いを受けたのである。


 私自身は特に何とも思っていない。

 エルフ達の怨嗟や憤怒は引き継いだが、それに呑まれることはなかった。

 ただ理性的に理解して、それを受け入れている。


 加害と被害は人間の本質だ。

 強ければ栄えて、弱ければ淘汰される。

 否定できない本能的な領分と言えるだろう。


 しかし、契約したのだからやり遂げねばならない。

 私は復讐の悪魔だ。

 エルフ達は代償を支払った。

 それに応えるのが責務であった。


「誰かいたぞ!」


「止まれっ! 妙な真似はするなよ!」


 曲がり角で兵士達と鉢合わせた。

 彼らはしきりに武器を向けて威嚇してくる。


 まだこちらの正体には気付いていないらしい。

 先ほど殺した者達より察しが悪いようだ。

 きっと高揚感で判断力が鈍っているのだろう。


(まあいい。どうでもいいことだ)


 私は鉈を揺らしながら顎を撫でる。

 じっと兵士達を観察した。


 この時点で城の中枢まで到達しているということは、それなりの精鋭だろう。

 彼らの佇まいには洗練された気配がある。


 暫し無言だった私は兵士達に尋ねる。


「この先に進んで何をするつもりだ?」


「エルフの女王に会いに行くのさ! とんでもなく美人と聞いているからな」


「顔さえ無事なら好きにしていいと許可を貰っているんだぜ!」


 返ってきたのは、なんとも人間らしい答えだった。

 兵士達からは醜悪な欲求が窺える。

 同時に私への殺気が漂っていた。

 問答を煩わしく感じ始めて、無駄話を遮って剣を振るおうとしている。


 私は冷笑した。

 遠慮なく前に進み出ると、兵士達が反射的に後ずさる。

 そのうち数人が驚愕したのを見逃さない。


(ようやく私の正体に気付いたようだ)


 ここはエルフの国である。

 他種族の出入りは厳禁とされていた。

 私が味方の兵士でないことも一目瞭然だろう。

 そうなると、残された可能性は僅かだ。

 察しの良い兵士は気付いてしまったに違いない。


「私は復讐の悪魔だ。エルフの女王と契約してきた」


 素性を告げると、兵士達は硬直した。

 次の瞬間、彼らの行動は二分する。

 背中を見せて逃げ出す者と、武器を手に攻撃を仕掛けてくる者に分かれたのだった。


 私は悠然と鉈を振り上げる。

 這うような姿勢から疾走した。


 廊下の端まで辿り着いた時、兵士達は肉塊となっていた。

 彼らの残骸が床に染み渡っていく。

 無傷の鎧だけが寂しく転がっていた。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] こう言う悪魔は存在するという常識がこの世界にあるなら普通に酷いことできなくない?
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