第39話 策略
使役の悪魔が歯噛みする。
粘液の絡んだ大鎌を無理やり一閃すると、足腰に刺さる針を破壊した。
そのまま引き裂けた脚で後退する。
私はそこに鉈で襲いかかった。
大鎌の迎撃が首に叩き込まれて、刃が半ばほどまでめり込む。
しかし、粘液で補強してあるので断たれることはない。
私は構わず鉈を投擲した。
盾で防御されたところで、鉈が液状化してへばり付いた。
そうすることで彼の動きを阻害する。
「ぐ、くっ」
使役の悪魔はすぐさま盾を放棄し、空いた手を私に向けた。
そこから魔力の鎖が射出されて瞬時に私を拘束する。
鎖はどんどん締め付けが強まっていく。
腕が圧迫されて変色し、骨も軋んで折れる寸前となった。
使役の悪魔は鎖と大鎌を手に笑みを見せる。
「へへっ、舐めんなよ。九百年前、あんたに殺された時に学習したからなぁ。あれからいくつか魔術を習得したんだぜ」
「そうか」
私は冷淡に応じながら観察する。
使役の悪魔の負傷した足腰が再生しつつあった。
肉が盛り上がって止血されている。
体内に混入させた粘液で再生を妨害していたのだが、不十分だったようだ。
相手は同格の上位悪魔である。
しかもこちらは"克服"で向こうは"支配"だ。
原則的に後者の方が力が大きくなる傾向にあるため、能力の優劣で負けてしまったらしい。
現状、使役の悪魔は変幻自在の粘液に戸惑っているが、いずれ対応してくるだろう。
そうこうしているうちに、鎖の圧迫によって腕の骨が粉砕された。
今度は胴体も悲鳴を上げ始めている。
「ペナンス!」
少年が心配そうに声を上げた。
私は小さく頷いて落ち着かせる。
使役の悪魔は私への攻撃に集中している。
その気になれば、すぐにでも少年の命を刈り取ることが可能だった。
今はこちらに気を向かわせておかねばならない。
肉体に食い込んでいく鎖を一瞥した私は、能力の操作に集中する。
(まずは戦況を立て直すか)
周囲を覆う粘液の壁と天井を動かして、素早く少年を包み込んで保護した。
同時にエルフの魂を活性化させて使役の悪魔へとけしかける。
「おおっ、やっぱこう来るよなァッ!」
歓喜の声と共に大鎌が乱回転した。
濁流と化したエルフ達が次々と切り裂かれていく。
一方で私を拘束する鎖が緩んだ。
私は体内の粘液を膨張させて鎖を破壊すると、血みどろの身体で使役の悪魔へと跳びかかる。
その時、間近から無数の雄叫びが轟く。
失われた粘液の壁の向こうから、帝国軍の騎士達が雪崩れ込んでくるところだった。




