第36話 悪魔の才能
その日も私と少年は街道をひたすら進む。
途中で何度か馬車や傭兵とすれ違うことがあったが、彼らは特にこちらを気にする素振りも見せずに通過する。
一度だけ旅芸人に扮した"偽装"の悪魔が襲いかかってきたものの、一瞬で返り討ちにできた。
全身の皮膚を引き剥がして首を刎ねることで消滅させた。
いずれ関わった際に転生させると決めていたのでちょうどよかったのだ。
それにしても、これだけの数の悪魔と連戦するのは久々である。
帝国はかなりの数の悪魔と契約しているらしい。
エルフの根絶がそれほど許しがたいことだったのだろう。
昼食を済ませたところで、少年が剣を振りながら呟く。
「悪魔って普通に武器を使うんだな。ペナンスみたいに能力だけで戦うと思ってたけど」
「下位や中位ほど魔術武器に頼る傾向にある。もちろん上位悪魔でも能力以外を用いることは珍しくない。自らの適性に合わせて調整している」
明け方に殺害した"反逆"と"追放"に加えて、先ほどの "偽装"も武器を使用していた。
鍛え上げた能力と高品質な魔術武器の組み合わせて戦法を確立しているのだ。
下手をすると人間にも負けかねない中位や下位の悪魔は、そうして実力を補強している。
とは言え、私のように能力で武器を生み出す者も多く、戦い方を厳密に分類するのは難しかった。
少年は歩きながら剣を素振りして尋ねる。
「ペナンスには何か得意な武器ってあるのか?」
「特にない。戦いの才能がないのだ」
「嘘つくなよ。他の悪魔を殺してるだろ」
「あれは悪魔としての才能だ」
私が答えると、少年は眉を寄せて難しそうな顔をした。
剣を止めてしばらく考え込み、ぼそりと反論する。
「……同じ意味だろ?」
「すべてが違う。悪魔は武人ではない。戦闘技術は二の次だ。いくら武闘に優れた悪魔でも、契約を軽んじれば消滅する。力の強さなど一面的な評価に過ぎない」
「へぇ、そういうもんなのか。悪魔も大変なんだな」
少年は欠伸を洩らしながら感想を述べた。
込み入った内容の話を聞くのが苦手らしい。
もっとも、私はそれでいいと思っている。
深すぎる思考とは行動を妨げる。
迷いも生みやすい。
簡素かつ明瞭なほど良い。
その点、少年は純粋だ。
一方で世界の醜さにも気付いており、私との出会いで学ぶことも増えた。
依然として復讐を固く誓っている様子だった。
彼は稀有な精神性を育てている。
(少年なら悪魔になれるかもしれない)
ふとそんな考えが過ぎるも、首を振って消し去る。
悪魔になどなるべきではない。
それを私は誰よりも知っている。
復讐を果たした少年が、平凡な余生を送ることを祈るばかりだった。




