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エルフが絶滅した日。  作者: 結城 からく


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第34話 目指す先

 移動を続けること暫し。

 日没が訪れたところで私達は足を止めた。

 街道の脇で焚火を作って簡易的な野営の支度をする。

 薪や枝は移動中に集めていた物を使った。


 少年は焚火のそばに座って暖を取る。

 私は近くの岩に腰かけて告げた。


「私が朝まで見張りをする。休息を取るといい」


「悪魔は寝ないのか?」


「眠ることはできるが、必要な行動ではない。飲まず食わずで戦い続けることもできる」


 契約が力の源であり栄養分だ。

 そのため何もせずに怠けていると、徐々に力が落ちていく。

 もっとも、上位の悪魔にもなれば、能力低下すら滅多なことでは起きなくなる。

 名の支配や克服を経ると、悪魔の制約を多少ながら無視できるのだ。


 私は道中で狩った兎の生肉を放り投げて焚火に落とした。


「それも食べておけ」


「……全部いいのか」


「構わない」


 私がそう答えると、少年は目を輝かせて兎肉を凝視する。

 焼き上がったと判断した瞬間、ナイフで刺して焚火から取り上げた。

 彼は熱そうにしながらも齧り付く。

 必死そうなその姿は、誰かから奪われることを警戒しているかのようだった。


 やがて兎肉を完食した少年は、その場でナイフを振り始めた。

 上段からの振り下ろしに続けて刺突を繰り出す。

 細かく構えや角度を変えながら、ひたすら繰り返していた。


「鍛錬か」


「日課なんだ。寝る前に素振りを五百回」


 少年は答えながらも刺突を連続する。

 素人同然だが、力強さは評価できる動きだ。

 成長して筋肉が付けば、立派な戦士になれるのではないか。


 少年は全身を駆使して素振りを行いつつ、遥か先を見据えて呟く。


「俺は悪魔殺しの剣士になる。絶対に生き残って強くなるんだ」


「私に報復すようとすれば、その場で死ぬことになるが」


「だからどうしてそんなことを言うんだよっ」


 少年は大げさに怒鳴った。

 しかし、すぐに落ち着いて素振りを再開する。

 そんな彼の瞳に不安が過ぎる。


「……なあ、今の俺に悪魔は殺せるかな」


「十中八九、瞬殺されるだろう。比較するまでもない」


「弱点を狙っても駄目なのか?」


「よほど運が良ければ可能かもしれないが、決して現実的ではない」


 悪魔には脆い面があるが、基本的には人間を凌駕する存在だ。

 だからこそ契約は重宝されて、どこの国を引き込もうとしている。

 ただの少年が簡単に殺せるほど甘くはなかった。


 ナイフを下ろした少年は、手を振りながら私に乞う。


「じゃあさ、悪魔に勝てる秘訣を教えてくれよ」


「執念を持て。容赦を捨てろ。どこまでも残酷になれるのは人間の特権だ。契約と感情に縛られた悪魔には限界がある」


「……それって人間の悪口みたいだな」


「否定はしない。種族を問わず、人間は醜く愚かで利己的だ。欲望に忠実な挙句、偽善を騙って悪を為す。だからこそ価値がある」


 私が淡々と述べると、少年はますます顔を顰めた。

 間もなく口を尖らせてぼやく。


「難しいことはよく分からない。もっと簡単な話をしてくれよな」


「ならば自分で答えを見つけることだ。他者から求めるばかりでは真理に辿り着けないだろう」


 そう返すと、少年は愚痴りながらも素振りに没頭するのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 「復讐」の悪魔と少年の奇妙な交流。 [一言] 続きも楽しみにしています!
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