第33話 少年の決意
私から説明を聞いた少年は拳を握って決心する。
「……よし。決めたぞ。皇帝を守る悪魔は皆殺しにしてやる。復讐が終わるまでは協力してやるよ」
「別に協力は求めていないが」
「うるさい! 細かいことはいいだろ!」
少年が私の背中を叩いてきた。
別に痛くないが、意外と力が強い。
同年代の中でも鍛えているのではないか。
少年は過酷な環境で育っているらしいので、必要な力が自然と付いたのだろう。
「俺は強くなる。それで、悪魔にも負けない大人になるんだ」
「努力と運次第だな。多少の無茶は必須になるが、その前に死ぬ可能性の方が高い」
「なんで脅すようなことを言うんだよっ」
またも背中を叩かれた。
少年は楽しそうにしている。
気さくに笑う姿は年相応に見えた。
(やけに馴れ馴れしいな。私を殺そうとしたというのに)
私に殺意や敵意がないことを感じて、考えを改めたのかもしれない。
しかし、それでも彼の暮らす街を壊したことには変わりない。
親しくしている住人にも被害が及んでいるはずだ。
だからこそ一人で報復に打って出たのだから。
(ここで挑んで死ぬより、協力関係になるのが得策だと考えたのか)
少年は賢い。
そういったことを企んだとしても不思議ではなかった。
別に私はそれでいいと思っている。
復讐のためには心を殺すべき場面もある。
それを本能で理解したのなら、少年の生存能力は飛び抜けた才能と言えよう。
「そういえば、お前のことは何て呼べばいい?」
「悪魔に名はない。便宜上、自らの関する部分で呼び合うが」
「"復讐"なんて個人の名前じゃないだろ。何か呼びやすいのはないのかよ」
「……ペナンス。名が必要な場合に使っている」
私が嫌々ながら答えると、少年は嬉しそうに頷いた。
「よし、分かった! ペナンスだな。よろしく頼む。ところでさ、俺に剣術を教えてくれよ。戦う力を身に付けたいんだ」
「専門外だ。他の者に習うといい」
「冷たいことを言うなって! 剣の悪魔とか、そういう知り合いを紹介してくれよ!」
そんなやり取りをしながら街道を進む。
無邪気な少年に応じる一方で、私は仄暗い思考に浸る。
(上手く誤魔化すことができたな)
少年には伝えていなかったことがある。
結局、最初の質問には答えていなかった。
私は復讐をしたくて悪魔になったのか。
それと具体的な悪魔の生まれ方だ。
悪魔とは空の器である。
器に人格が注がれることで完成する。
核となる人格は、死者から選ばれるのであった。




