第32話 悪魔の発祥
足を止めた少年が、じっと私を見つめてくる。
何事かを考え込んでいる様子だ。
やがて彼は静かに口を開く。
「なあ」
「何だ」
「お前は復讐したくて悪魔になったのか?」
「……どうだろうな」
素朴な疑問に対し、私は表情を見せずにはぐらかす。
少年は怪訝そうに眉を寄せた。
こちらの本心には気付いていないが、違和感は覚えただろう。
私は話題をずらして少年に問い返す。
「悪魔がどう生まれるのか知っているか」
「知らない」
少年は首を横に振る。
悪魔の誕生は一般常識ではない。
ただ生きた災厄として知られるのみだ。
前提として、あまり広まるべきではないのも事実であった。
そのため少年が知らなかったとしても不思議ではない。
「次の街までは時間がかかる。歩きながら悪魔の発祥について説明しよう」
「うん、分かった」
少年は素直に頷く。
不審がる気配は、すっかり鳴りを潜めていた。
悪魔というものに関心があるのだろう。
個人感情を差し置いて、知識を得られる機会を最大限に利用している。
そのようなしたたかさを感じ取れた。
私は興味を抱く少年に説明する。
「悪魔とは、人間の感情から生まれる存在だ。自らの根源となる感情を好み、それを唯一無二の糧としている」
「人間の感情を食べるのか?」
「ああ、そうだ。契約を通して採取している」
契約のたびに根源の感情を得て存在を維持する。
そのため長く生きた悪魔ほど強大な傾向にあった。
快楽の悪魔などはその典型例だろう。
彼女は最終的には名を支配した。
そして現在、数少ない古参の上位悪魔として君臨している。
「悪魔は基本的に不老不死だ。たとえ殺せたとしても、長い年月をかけることで蘇る」
「完全には死なないなんて、そんなの卑怯じゃんかよ!」
「ああ、とても卑怯だ。故に人間から怪物扱いされている」
悪魔の死は一時的なものだ。
少しばかり力が衰退するが、復活の代償としては破格だろう。
この不死性はどの悪魔も共通して備えている。
「悪魔を真の意味で殺したいのなら、積み上げてきた力を崩せばいい。私にやったように、冠する名を弱点として突くのが有効だ。下位の悪魔はそれだけで消滅する」
「意外と弱いんだな」
「人間より遥かに脆い一面を持つのが悪魔だ」
私は若干の自嘲を込めて述べる。
一種の天災のような扱いをされる悪魔だが、決して無敵とは言い難い。
その根源を探れば、人間でも滅することは可能だ。
人間の感情に依存する部分こそが、強みであると同時に弱みなのだろう。




