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エルフが絶滅した日。  作者: 結城 からく


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第29話 復讐者

 街を破壊した私は、帝都の方角へと歩き出した。

 恐怖する住民を置いてその場から去る。

 しばらくすると、後方から息の切れた叫び声が聞こえてきた。


「お、おいっ! ちょっと待て!」


 私は足を止めて振り返る。


 そこにいたのは、みすぼらしい服装の少年だった。

 手には果物ナイフを握っている。

 疲労と怒りに染まった顔は、射抜かんばかりに私を凝視していた。


 私は平然と応じる。


「何だ」


「お前、悪魔だな! ひょっとして噂の"復讐"かっ!」


「そうだが」


 即座に肯定すると、少年は歯ぎしりする。

 彼は果物ナイフを強く握り締めながら私を糾弾した。


「どうして街を壊したんだっ!」


「復讐のためだ。私は帝国を滅ぼさねばならない」


「そんなことが、許されるのか」


「たとえ神に許されずとも完遂する。悪魔の契約は絶対だ。私は信念を以て復讐に取り込んでいる」


「じゃあ、街を壊された復讐をしても文句は言わないんだな?」


「無論だ。それを拒む権利はない」


 ここまでのやり取りで私は察する。


 少年は先ほどの街の住民なのだ。

 崩壊した街から飛び出して、主犯である私を引き止めにかかったらしい。


 大した勇気である。

 兵士でさえ一人も追ってこないというのに。

 ただの少年が、本能的な恐怖に打ち勝って私を呼び止めたのだ。


 少年は果物ナイフを構えると、じりじりと歩みを進めてくる。


「……知っているぞ。悪魔は自分の名前が弱点なんだろ。つまりお前は復讐されることが苦手なんだ」


 少年の指摘は正しい。

 悪魔は原則的に欠陥を有する。


 嗜虐の悪魔は、傷付けられることで力を削がれる。

 快楽の悪魔は、心身の悦楽に流されると脆くなる。

 復讐の悪魔は、他者からの報復行為が致命傷になりやすい。

 献身の悪魔は、自己利益を顧みない者を止められない。


 冠する名によって条件や性質は異なるものの、そこを突かれると非力な人間にも殺されかねない。

 超常的な存在である悪魔だが、それぞれ弱点を抱えているのだ。


 別に隠された特性ではないので少年が知っているのも不思議ではなかった。

 彼はその原則を利用して報復しようとしているようだ。


 果物ナイフの刃先で私を狙う少年は、いきなり腰を落として突進してきた。


「街の皆の仇だァッ!」


 決死の攻撃に対し、私がやったことは粘液の排出だった。

 手から溢れたそれは少年に絡み付いて動きを止めて、そのまま全身を包み込んで溺れさせる。


「悪魔の弱点は、中位や下位にのみ通じる話だ。克服や支配を経た上位悪魔はこの原則を無視できる」


 粘液の中でもがく少年に対し、私は冷徹に告げるのだった。

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