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エルフが絶滅した日。  作者: 結城 からく


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第26話 献身の悪魔

 献身の悪魔の要求を前に、私は冷ややかな心持ちとなる。


(正論だが感情に委ねすぎている。本気で私を説き伏せられると思っているのか?)


 言い様もない失望と嫌悪感を覚えていた。

 それと同時に過去を振り返る。


 かつて献身の悪魔は上位悪魔だった。

 彼女は名を克服し、厳正な視点を以て適切な場面のみ世界に干渉する存在となった。

 己の存在意義を狭く解釈し、自己犠牲と自己満足を同一視したのだ。


 契約の数を減らすことに注力する姿勢は、悪魔らしくないとして蔑まれていた。

 一方で私は本能を律したその姿勢に好感を抱いたものである。


 しかし、そんな献身の悪魔は消滅した。

 他の悪魔によって葬られてしまったのだ。

 記憶と人格を漂白された献身の悪魔は、まったく別人として転生した。

 以降、数度の消滅を経て現在の青年となっている。


 目の前で懇願する彼は、精々が中位の悪魔だろう。

 酷評するなら下位の頂点である。

 お世辞にも強いとは言えず、それは内心にも言えることだ。

 平和主義者で博愛の精神を掲げる彼からは、自己陶酔の色が滲み出ている。


(帝国との契約内容も論外だ。それでは意味がない)


 代償として爵位を求めたそうだが、それで悪魔の侵攻を止めるなど割に合わない。

 きっと軽い代償で苦難を乗り越える自分に酔っているのだ。

 理性面では人々を救うことを美徳だと考えている。

 実際は自らの名に支配されて、薄汚い欲望に従って行動しただけである。

 悪魔らしいと言えばそれまでだが、決して美しい形とは思わなかった。


 私は表情を変えず前に進み出て鉈を一閃した。

 刃先から粘液の飛沫が散り、それらが空中で加速する。

 地面に当たって反射すると、献身の悪魔に命中した。

 彼の片腕が引き裂かれて、肉片と骨が後方に霧となって弾ける。

 白い衣服が赤く染まっていった。


「……ッ!?」


 献身の悪魔は、痛みと驚愕に顔を引き攣らせる。

 彼はふらつきながら裂けた片腕を押さえた。

 流れ出る血が凝固し、即席ながら傷を塞ぐ。


 最低限の回復能力は習得しているらしい。

 ただ、高速再生できるほどではないようだ。

 痛みを遮断する技能はなく、かと言って耐える精神力も持ち合わせていない。


 献身の悪魔は、脂汗を流しながらこちらを見た。


「ど、どうして……」


「私を止めたいのなら暴力しかない。お前も悪魔なら己の命を捧げてみせろ」


 鉈の切っ先を向けながら、私は冷徹に述べた。

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