第24話 暴力性
己の存在目的を再確認していると、次の街が見えてきた。
中規模で外壁に囲われている。
さらに複数の魔術で補強しているようだ。
悪魔でなければ侵入は難しいだろう。
街からは大勢の命の気配が感じられる。
数カ所に集まっているのは、避難しているためか。
門は開いておらず、外壁の裏から視線と敵意が伝わってきた。
きっと住民ではなく防衛の要である兵士達だろう。
この街全体だと、およそ一万の兵士がいるようだった。
彼らは籠城を選んだらしい。
近付く私を察知しながらも、外へ出てくる兆しはない。
(どうしたものか)
私はどう行動すべきか迷う。
この街を攻め落とすか。
それとも何もせずに通り過ぎるか。
どちらも私にとって労することではない。
攻め落とすのは簡単だった。
鉈で一人ずつ斬殺してもいい。
効率性を求めるのなら、上空から粘液の濁流を注ぎ込むだけだ。
あとはエルフ達が勝手に蹂躙する。
住民と兵士を逃がすことなく抹殺できるだろう。
故に迷う観点はそこではない。
エルフの女王は三つの国を滅ぼしてほしいと言った。
細かい決まりは定めていない。
その都度、私が判断した方がいいと考えたからだ。
国を滅ぼすにあたり、この街を壊す必要があるのか。
私はいくつもの要素を軸に考察する。
完膚なきまでに殺戮すれば、間違いなく恐怖心を強められるだろう。
軍事力の低下に繋がり、国内の混乱や不安を煽ることができる。
滅亡までの道が円滑になるのは確かだ。
ただ、必須かと言われれば、否と答える。
仮にこの街を通り過ぎようとも、復讐に支障を来たすことはない。
今後、背後から狙われるかもあるかもしれないが、その際は迎撃するまでだ。
別にそれでも構わないだろう。
私が悩む一方で、エルフの魂は戦気を漲らせていた。
許してはおけないと考えている。
この世界において、エルフとは奴隷種族だった。
美しい容貌に優れた魔術適性に加えて、人間より遥かに長命で若々しい。
羨望はやがて憎悪に――或いは欲望の対象となった。
彼らは五百年前よりこのような扱いになっている。
地域的な迫害の風習が大陸全土に波及したのだ。
以降、エルフは故郷の国で生きるようになった。
それでも不法入国が横行し、幼いエルフが拉致されることが頻発した。
さらには国外でエルフという種の繁殖が始まり、需要に満たない分を増やすようになった。
エルフ達にとって、すべての人間が憎悪すべき存在なのだ。




