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エルフが絶滅した日。  作者: 結城 からく


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第23話 悪魔の願い

 私は帝国兵の散乱する大地を徒歩で進む。

 目指すは国の中央地である帝都だ。


 急ぐ必要はない。

 むしろじっくり向かうべきだろう。


 復讐は粘質かつ凄惨であるほど喜ばれる。

 私に復讐を依頼する者は、大抵が契約が成立する時点で死んでいた。

 その魂を代償として要求することが多いからだ。


 契約者が存命だと、さらなる報復を恐れて迅速な解決を望む。

 その点、死者は憂いがない。

 私の力を借りて相手を蹂躙できるため、その感覚に酔い痴れてしまうのだ。

 結果、できるだけ原始的で時間のかかる殺害方法を好む。


 此度もまた同様だった。

 私の内に潜むエルフの魂は、満足とは程遠い状態にある。

 たとえ侵略に絡む三国を滅ぼしても、さらなる破壊を願うのではないか。


 過去にそういったことはあったが、私はいずれの要望も断っている。

 交わした契約を途中で捻じ曲げることはできない。

 それをすると悪魔は消滅する。

 どれだけ強大だろうと問答無用で死ぬのだ。

 悪魔は人間に契約を持ちかけるが、悪魔自身も契約に縛られていた。


 もっとも、そういった制約がなくとも復讐以上の破壊は請け負わない。

 不満を抱く契約者の魂は、己の力へと強制的に変換してきた。


(今回は円満に終わるといいのだが)


 私は復讐の先に覗く不安を見据える。

 少し憂鬱な気分になるも、心境が能力に影響することはない。


 私は名を克服した悪魔だ。

 どのような精神状態でも万全である。

 我ながらいつも何かを憂いているため、この程度は誤差の範疇と言えよう。


 そう、私はいつもそうなのだ。

 数え切れないほどの苦悩や葛藤や後悔を経て現在に至る。

 心の摩耗は洗練に昇華されて、強靭な意志を以て復讐を代行している。


 悪魔は人間より遥かに楽しいと誰かが主張した。

 欲望に忠実で、自由気ままに過ごすことができる。

 超常的な力を振るって神のように振る舞える。

 実際、その立場に憧れる人間も多い。


 しかし、私は悪魔であることに優越感を覚えない。

 強大な能力に魅了された時期もあったが、今はそういったこともなかった。

 契約に私情は持ち出さず、ただ義務的にこなすようになっている。


(本来、悪魔とはその名を支配するのが最上の流れなのだろう)


 長年に渡って生きてきたのでよく分かっている。

 正しい形とは、支配に成功した上位悪魔なのだ。

 自らに刻まれた名を味わい尽くし、その上で手中に収めるべきである。


 私のように克服するのは存在意義に反している。

 故に嫌われたり、変わり者だと馬鹿にされる。


 私はもはやどうでもよかった。

 悪魔の本懐から逸脱しながらも、誰よりも契約を重く捉えて厳守している。


 他の悪魔にはできないことだ。

 契約のためならば国すら滅ぼす。

 それがこの世界に根付く復讐の悪魔の在り方であった。

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