第22話 抗う帝国
エルフの女王と契約を交わしてから十日が経過した。
私は帝国の辺境を渡り歩いていた。
「ここで止めろ! 絶対に進ませるなァッ!」
帝国軍の指揮官が叫ぶ。
私は舞うようにして接近すると、その首を鉈で叩き斬った。
兜を掴んで切り離した頭部を投擲する。
放った剛速球は、軌道上の兵士に風穴を開けて破裂した。
私は帝国軍の只中に着地し、粘液の濁流を発生させる。
エルフの魂を帯びた津波が四方八方に氾濫し始めた。
必死に抵抗する兵士達を呑み込んでいく。
大地を震わせるのはエルフの喝采だ。
復讐心に駆られた彼らは、何もかもを破壊しながら波及する。
残された私は周囲の光景に意識を向けた。
ここは帝国領土の平原だ。
背後には大河が流れており、そこを防衛していた軍は既に殲滅した。
私が鉈で残らず斬殺したのだ。
奥で待機していた本隊も、赤い津波で瓦解している最中だった。
帝国は優れた戦力を保有する。
戦争に次ぐ戦争で大陸の覇権を握ってきた強国だった。
人間だけの軍隊で中位の悪魔を殺した実績もあり、周辺諸国から恐れられている。
今回、私のせいでエルフの奴隷を得らなかったのがよほど許せなかったらしい。
侵略に関わる三つの国の中で最も攻勢的だった。
快楽の悪魔によれば、刺客となる悪魔まで雇い始めているそうだが、未だにその兆しは見られない。
行く手を阻むのは人間の軍隊ばかりである。
(どこか別の場所に配置しているのか?)
悪魔は自由気ままな者が多い。
融通の利かない性格も珍しくなく、帝国の命令を無視して独自に行動している可能性もあった。
そうなると捕捉は困難だ。
向こうから襲撃してくるのを待つしかない。
もっとも、私からすればどうでもいいことだ。
目的は決まっている。
帝国や刺客の悪魔が何をしようと突き進むのみだった。
人間でも悪魔でも虐殺することには慣れている。
それについて苦労することはないだろう。
大河から離れるように歩くうちに、周りの軍隊は崩壊していた。
平原一帯を染め上げる赤い津波によって抹殺されたのだ。
エルフ達はあちこちで歓喜して勝利の味を堪能している。
復讐とは心地よいものだ。
彼らにはもはや失うものは何もない。
そのすべてを投げ打って悪魔の力を借りたのだ。
倫理面はともかく、暴力を返す正当性は持ち合わせていた。




