表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エルフが絶滅した日。  作者: 結城 からく


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/107

第20話 憐憫

 快楽の悪魔は、朝日を受けて眩しそうな顔をした。

 彼女は日差しを手で隠しながら私に尋ねる。


「これからどこへ向かうの?」


「三つの国を巡って王を殺す。順番はまだ考えていない」


「いつも通りの流れね」


「それが最適だからだ」


 私は過去に数え切れないほどの復讐を代行してきた。

 国が相手だってことも珍しくない。

 そして最終的には頂点に君臨する王を抹殺する。

 首謀者を生かすわけにはいかないからだ。


 今回の契約において、エルフの女王は三国を滅亡を望んだ。

 つまり歴史上から対象の国々を抹消する必要がある。

 王を殺すことは大前提として、他にも処理しなければいけないことがあった。


 ただ命を奪うだけでは達成できない目的だ。

 今後の情勢に合わせて、契約の落としどころを考えねばなるまい。


「だいたいどれくらいの時間をかけるつもりかしら」


「最低でも一年。長ければ五年程度だ。この国はそれだけの期間を防衛に費やしてきた。」


「しっかりとやるのね。そんなにエルフ達の怨念は強いの?」


「当分は満足しないだろう。さらなる惨劇を求めている」


 私は己の胸に手を当てる。

 内を巡るエルフ達の魂は治まる気配がない。

 兵士の死を感じるたびに歓喜し、嗜虐の悪魔を消滅させた時などはむせび泣いていた。

 エルフ達は復讐に憑りつかれてしまったのだ。


 意味深に私を一瞥した快楽の悪魔は、地平線を眺めながら呟く。


「虐げられた人々は弱者だけど、武器を手にすればどこまでも残酷になり、やがて加害者と遜色ない状態になる。愚かだと思わない?」


「それでも私はやり遂げる。この身は復讐の刃であり、未来への抑止力だ」


「頑固者ね。名を克服した悪魔の中でもあなたは別格だわ。いつか精神が破綻して消滅するわよ」


「私が潰れるのは、世界から争いがなくなった時だ」


「つまり世界滅亡の瞬間ね」


「…………」


 私は沈黙する。


 快楽の悪魔は皮肉を言ったわけではない。

 彼女は世界から争いがなくなることなどないと知っている。

 もし実現しようとするなら、人類を根絶するしかなかった。

 叶わぬ理想を述べる私に、ある種の憐憫を抱いているのかもしれない。


 それでも私が意志を曲げることはなかった。

 よりよき世界を目指して、暴力を行使するのみである。

 復讐は誰かを救うことはできないが、恨みを晴らすことはできる。

 死の連鎖の中で、何かが好転するのを待つ望むばかりであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] なるほど、この「世界」一つだけなんですね。納得です。
[良い点] 第20話到達、おめでとうございます! [気になる点] やはり「復讐」は悪魔の中でも異端児なのか。 デビルマンを連想させる。 [一言] 続きも楽しみにしています!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ