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第2話 最期の契約

 私は城内の一室の前にいた。

 扉をノックしてから開けると、そこには凛とした雰囲気を纏う美女が立っていた。

 彼女こそエルフの女王だ。


 私は近くにあった椅子に座って話しかける。


「街の様子を見てきた。凄惨な有様だったな」


「……何をしに来たのですか」


「過去に三度も打診している。既に分かっているはずだが」


 私は非難めいた視線を流す。

 少し間を置いてから、頬杖をついてエルフの女王に告げた。


「契約だ。願いを言え。代償を払えば叶えよう」


 私の言葉に対し、エルフの女王は眉を寄せた。

 葛藤と不快感が覗く。

 特に後者はこちらに向けられたものだろう。


 やがてエルフの女王は、声音を落として要求を述べる。


「……では犠牲となった民を蘇らせてください。この国を再建したいのです」


「それは無理だ。悪魔にもできないことはある」


「ならば生き残った者達を安全な場所に逃してくれませんか」


「どこに逃げても無駄だろう。この世界にエルフが安住できる地はない」


 エルフは奴隷――万国共通の常識である。

 唯一の例外がこの国だったが、今や欲に駆られた人々に侵略されている。

 滅亡も時間の問題だろう。

 故にエルフの女王の願いは無駄なのだった。


「私の叶えられる範疇は知っているはずだ。回りくどいやり取りは好きじゃない。さっさと望みを言え」


「ぐっ……」


「この期に及んでまだ躊躇うのか。覚悟がないと捉えていいのだな?」


 私が詰め寄ると、エルフの女王は憎々しげな顔をする。

 左右の拳を握り締めて歯噛みし、俯いたまま深い逡巡を繰り返す。


 遠くからは喧騒が聞こえてくる。

 エルフ達が兵士と戦っているのだ。

 今もこうしている間に命を散らしているのだった。


 やがてエルフの女王は、決意した顔を上げる。

 私を睨み付けるようにして願いを口にした。


「この命を捧げます。だから、この国を侵す者達を罰してください」


「代償が足りないな。それに望みが曖昧だ。もっとよく考えてみろ。適した表現があるはずだ」


 私が囁くと、エルフの女王は顔を歪めて歯ぎしりする。

 怒りと絶望と罪悪感がない交ぜになっていた。


 そう、彼女の中で答えはもう出ている。

 素直に言えないのは、責任を負い切れないからだ。


 迫る滅亡に決定的なものにする。

 何をせずとも国は崩壊するが、それを後押しするのは恐ろしい。


 しかし、エルフの女王は決断しなければならない。

 私に向けて願いを言う義務と権利があるのだ。

 死にゆく国が報復できるのは、この瞬間だけなのだから。


 だからエルフの女王は行動する。

 涙を流しながら跪くと、震える声で願った。


「生きとし生けるすべてのエルフ族を捧げます。どうか災厄の三国を滅ぼしてください」

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 気になって読み返してみたが、エルフの女王は「帝国を含む三国の滅亡」の履行を「復讐」に求めてはいても、「人間の絶滅」までは求めていないな。 「人間の絶滅」を求めるには、女王自らを含むエ…
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