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エルフが絶滅した日。  作者: 結城 からく


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第17話 支配した悪魔

 夜明けが訪れた。

 日光が城の跡地に差し込んでくる。

 嗜虐の悪魔の残滓は、幻のように薄れていった。

 やがて完全に消える。


 このまま彼女の魂は漂白される。

 悪魔の不死性を発揮できず、緩かに滅びるのだ。

 そうして数十年後には、新しい嗜虐の悪魔として生まれ落ちる。


 記憶も経験も積み直しとなり、自己存在のためにその時代の人間と嗜虐にまつわる契約を結ぶ。

 名の束縛を超えるか、その先に進めるかは本人次第だった。

 私としては、嗜虐心を克服して上位悪魔になってほしいと考えている。

 その望みが叶わず、途方も無い年数を経ているわけだが。


 朝日の昇る様を眺めているうちに、血みどろだった私の身体は急速に再生しつつあった。

 小規模ながら復讐を成し遂げたからだ。

 殺すべき相手を殺したことで、肉体がそれに呼応している。

 一旦の区切りが付いたものとして、この身を回復させているのだった。

 私は体内から疑似骨格を引き抜いて液状化させて衣服代わりに纏う。


 五感を強化して知覚範囲を拡大した。

 撤退した兵士達は街の外にいるようだった。

 恐怖に煽られて逃走している。

 既に解除したエルフの津波を恐れて、我先にと街から離れていた。


 その気になればまだ追いかけることもできるが、今は放っておくつもりだった。

 彼らを殺したところで何の足しにもならない。

 エルフ達の魂は喜ぶだろうが、それだけである。


 復讐を完璧な形にするのなら、ここは兵士を見送るべきだった。

 彼らを利用することで恐怖を広めるのだ。

 そうすることで此度の戦争の首謀者達に絶望感を味わわせることができる。


 復讐とは単に肉体的な損壊だけを指すわけではない。

 精神的に疲弊し、自らの破滅を祈る出すような状態にしてこそだと思っていた。


 私がそういったことを説明すると、エルフ達はひとまず納得する。

 契約の犠牲となって死んだエルフ達だが、ある程度の理性はまだ残っていた。

 胸中へと語りかけることで意思疎通は可能なのだ。


 その後、私は無人の首都を徘徊する。

 大きさの合う衣服を探していると、遠方から一つの気配が接近してきた。

 見れば音もなく飛行する桃色の髪の美女がいた。


 白と黒のドレスを着た彼女は、私のそばまで下降してくる。

 空中に座り込むような姿勢で美女は切り出した。


「あら、もう倒したのね。出遅れてしまったわ」


 美女は残念そうにため息を洩らす。

 私はその姿を目にしながら、片時も気を抜かない。


 彼女は快楽の悪魔。

 自らの名を支配する上位の悪魔であった。

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[気になる点] 悪魔が前線に出張ってくるとは滅多にない(フラグ)
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