第15話 悪魔殺し
嗜虐の悪魔は何度も舌打ちする。
彼女は切断された片手を振りながら怒りを露わにした。
「どいつもてめぇのことを話さねぇと思ったら、そういうことだったのか。つまり復讐の悪魔は、俺の宿敵ってわけだ」
「お前にとってはそうだろうが、私からすればただの獲物に過ぎない。悪魔としての格が違う」
「言いやがるぜ、クソ野郎がァッ!」
嗜虐の悪魔が攻撃を仕掛けてくる。
衝撃波を込めた掌底だ。
距離を取るのは諦めたらしい。
力押しで殺すしかないと判断したようだ。
私は右手の鉈で受け止める。
右腕が掌底に弾かれて、関節を無視して二回転した。
肩が裂けるが、粘液の骨格で飛んでいかないようにする。
私は左手の鉈を突き出した。
嗜虐の悪魔は避けようとするも、それに合わせて鉈の刃先が変形する。
針のように細くなって一気に伸びると、嗜虐の悪魔の胸を貫いた。
さらに体内で膨れ上がり、針から立方体となって胸部を破裂させる。
「ゴォ、ハ……ッ!?」
嗜虐の悪魔は吐血する。
震える手で衝撃波を連打して、無理やり私を吹き飛ばそうとしてきた。
しかし、私は両足から大地に粘液を刺して固定している。
根のように深くまで張っているため、どれだけ攻撃を浴びようと動くことはない。
精々、血肉と骨が粉々になって後方に四散するだけだ。
物理的な損傷が死に直結するわけではない。
粘液の骨格が露出していくばかりで、大した意味はなかった。
「私は悪魔殺しだ。復讐のためならば、何者だろうと滅する。たとえ悪魔でも復活できないように破壊する」
「てめぇ、ここで俺を消す気か」
「そうだ。今までは見逃してきたが、もはや成長も望めない。次代の嗜虐に期待するのが賢明だろう」
過去にも同じことを繰り返してきた。
そのうち何度かは現在のように説明した。
到底受け入れられることはなかったが、こちらも納得させるつもりで言ったわけではない。
互いの主張が競合するのは目に見えて明らかであった。
「期待? 一体何を考えてやがる」
「嗜虐の悪魔が己の名を克服できれば、その衝動を抑えることができる。無理な契約はしなくなり、悪魔頼りの争いが少なくなる。悲劇に晒されて、復讐を願う者も減るだろう」
「自己否定か。どこまでも意味不明な野郎だ!」
「復讐など根絶されるべきだ。私はそのために力を尽くす」
私は鉈の形状をさらに変化させる。
立方体から蜘蛛の巣状に薄く広がると、茨のようになって嗜虐の悪魔を拘束しにかかった。
一本一本が肉体に深く食い込んで苦痛を与える。
嗜虐の悪魔は、ただ叫ぶことしかできなかった。




