第11話 悪魔が躍る
刹那の間に距離を詰めて、横殴りの斬撃を叩き込む。
狙いは首筋だった。
「ああ? 舐めてんのか」
嗜虐の悪魔が鼻を鳴らして手をかざす。
放たれた不可視の衝撃波が鉈と衝突した。
拮抗もそこそこに私は跳ね返される。
勢いは止まらず大地を転がっていった。
立ち上がった直後に、再び衝撃波に襲われる。
それは腹部に命中した。
私は身体を折ってさらに吹き飛ぶ。
手をついて起き上がるも、体内に違和感を覚えた。
そして大量に吐血する。
どうやら内臓が破裂したらしい。
衝撃波でやられたのだ。
「はっはっは! 情けねぇな! 口だけ野郎じゃねぇか」
「…………」
嗜虐の悪魔がこれみよがしに挑発してくるが、私は表情を変えずに立ち上がる。
これくらいで悪魔は死なない。
何も慌てることはなく、ましてや挑発に反応する必要性は皆無だった。
衝撃波は使い勝手の良い能力だ。
目に見えず、殺傷能力もそれなりにある。
常人なら即死させられる威力だ。
この世界に生まれる悪魔は、自力で能力を習得する。
手始めに衝撃波を選ぶ者は多いと聞く。
そこから自分に合った系統の力に切り替えていくのだ。
私は使えないが、かなり人気のある力であった。
余計なことを考えている間に、嗜虐の悪魔が突進してくる。
途中で掌底の動きに合わせて衝撃波を撃ってきた。
私は鉈を変形させて前面を覆う盾にした。
衝撃波を防御した直後、盾の表面が波打つ。
しかし、私にまで被害は及ばない。
「これで凌げたと思ったか?」
間近から嗜虐の悪魔の声がした。
彼女は盾の縁を掴んで押し退けると、振り抜くように蹴りを放つ。
私は咄嗟に飛び退いたが、右の足首を嗜虐の悪魔に掴まれた。
そこから遠心力を乗せて地面に叩き付けられる。
大地が割れて視界が真っ赤に染まった。
顔面が切れて出血したようだ。
さらに持ち上げられて、今度は背面から叩き付けられた。
その往復運動を高速で何度も繰り返される。
私の身体はどんどん傷付いていく。
骨は粉々になり、皮膚が剥がれて肉が抉れていた。
全身が血みどろだ。
もはや人相も分からなくなっているだろう。
それでも攻撃は加速し続ける。
一帯が更地になるような勢いで叩き付けられていた。
何百回と叩き付けられる中、破れた眼球で嗜虐の悪魔を観察する。
その顔には今、焦りが浮かんでいた。
私がまだ死んでいないことを確信している。
ここで反撃を止めれば死ぬ。
直感的に悟った嗜虐の悪魔は、ひたすら追撃を繰り返すしかないのだった。




