第106話 将来性
私は率直な疑問を少年に投げる。
「これからどうするつもりだ」
「うーん、ペナンスの復讐を手伝おうと思ったけど、別に手は足りているもんな」
「むしろ余っている」
常に過剰戦力だった。
私が何もせずとも、エルフ達が自動的に殲滅する。
過度に苦しめて虐殺までするため、場合によっては制止しなくてはいけないくらいだった。
連邦への復讐も同じような結果になるだろう。
苦戦する未来は微塵も見えない。
したがって少年の助力は不要なのだ。
「悪魔になったのだから、自由に過ごせばいい。よほどの悪事でなければ私も止めない」
「そっかー……改めて考えると難しいな。人間の時は毎日を生きるので必死だったし、将来なんて想像もしていなかった」
少年は腕組みをして考え込む。
以前までの彼は貧しい暮らしを送っていた。
私と出会わなければ、どこかで餓死していたかもしれない。
そのような日々で、数年後の未来を想うことはあまりないだろう。
目の前の飢えを癒すのが先決なのだ。
そもそも明るい将来など存在しない以上、考えを巡らせた分だけ落胆してしまう。
しかし、そんな少年も悪魔になった。
順調にいけば何百年、何千年という単位で生きることになる。
悠久の時を目的もなく彷徨うのは不可能だ。
何らかの指標は必須である。
それを早めに打ち立てられるのは良いことだろう。
私は先に悪魔になった者として助言をする。
「思い付かないのなら、名に基づいた契約をすべきだろう。力を蓄えて損はない」
「ペナンスもそうやって強くなったのか?」
「無論だ。どんな契約でも全力で遂行してきた」
私ほど契約に没頭する悪魔も珍しいだろう。
決して妥協せず、依頼者の願いを叶えるために奔走する。
善悪などは関係ない。
契約の上では何の要素にもならない概念だ。
悪魔としての名に相応しいか否か。
それだけを念頭に置いて契約を選別すればいい。
「規範の悪魔なら、名に関する契約も多いだろう。荒事である必要もない」
「そっか! じゃあ依頼人を探さないとな。早くペナンスに追い付くから待っててくれよ」
「私に並ぶのは困難だと思うが」
「だから野暮なことを言うなよっ」
すかさず少年が背中を叩いてくるが、本人が楽しそうなのでいいだろう。
どうやら久々の再会で気分が上がっているようだ。
その人間らしさを失ってほしくないと私は切に思う。




