第104話 再会
私は少年の姿を注視する。
簡素な黒い衣服を身に纏っており、当時より表情が大人びていた。
ただ、間違いなく私の知る彼だ。
復讐契約を結んだ果てに、皇帝と相討ちになった少年だった。
(しかし、この気配……)
私は少年を観察する。
物理的な観点ではなく、別の部分を注視した
すると彼の現在の状態が見えてくる。
私はそれを端的に指摘する。
「悪魔になったのだな」
「ああ、どうやらそうらしい。少し前に意識を取り戻したんだ」
少年は自分の身体を見下ろして答えた。
外見に大きな変化はないが、内包する魔力量は膨大だった。
人間の限界など軽く超えており、それが彼の現状を示している。
(やはり悪魔としての素質に目覚めていたのか)
共に行動していた際、その点については薄々ながら感じていた。
粘液を自在に使いこなして、次々と悪魔を殺すなど簡単にできることではない。
精神性という面でも少年は適材だったのだ。
こうして悪魔に選ばれる可能性は十分にあった。
私はあえてその未来を無視し、彼が人間のまま死を迎えて終わることを望んでいた。
悪魔になった者は碌な末路を辿らない。
だから少年をその運命に招き入れたくなかった。
しかし、現実は望み通りにならないようだ。
「すまない。私と関わりを持ったのが影響したのだろう」
「気にすんなよ! 悪魔になれて嬉しいんだ。こうしてペナンスと会えたしな!」
少年は親しげに接してくる。
この再会を心底から喜んでいるようだった。
そんな彼に私は尋ねる。
「何の悪魔になったんだ」
「それが"規範"だってさ。こんなに似合わない名前を貰うとは思わなかったぜ……」
少年は苦笑交じりに言う。
彼にとって予想外のことだったらしいが、私も同じ意見である。
少年に相応しい名は"復讐"だろう。
まさに彼の人生を司っていると評してもいい。
しかし"復讐"は私が持ったままなので席は埋まっている。
その場合、類似した名を冠することになるはずなのだが、少年は他にも適性を有していたようだ。
(或いは別側面として解釈しただけか。何にしても、彼は規範の悪魔になったわけか)
私は嬉しそうな少年を見やる。
そこに立つのは新人の悪魔だ。
かつて己の無力を憎み、復讐を決心した少年はいなかった。
一度目の死を経て、彼は人格的に成長したようだ。




