第102話 怨念の連鎖
(これで王国の滅亡は避けられないものとなった。何もかもが破綻している)
私は四年をかけて王国領土を練り歩いてきた。
帝国は少年の寿命も考慮し、迅速な移動を心掛けていた。
特に制約のない今回は、ゆっくりと巡るようにして破壊の嵐を振り撒いてきた。
恐怖する人々を追い立ててその命を奪ってきたのだ。
怨念と化したエルフ達は、何の慈悲も情けもなく無敵に等しい力ですべてを虐殺した。
帝国で要領を学んだ彼らは、一切の遠慮もなく欲望の赴くがままに暴走した。
その集大成が現在である。
明らかに度を超えたエルフ達を止めることはできた。
しかし、私はあえて静観の姿勢を貫いた。
もはや彼らは手遅れで、復讐から逸脱している。
すべてを滅ぼしても成仏することはない。
命を奪うほどに禍々しさが増していた。
たとえ止めても意味がないことは誰よりも分かっていた。
エルフの魂は、契約終了後にすり潰す予定だ。
彼らはもう救うことができない。
弱き被害者ではなく、残酷な加害者に成り果てている。
いずれ三国とは無関係な人間にまで危害を加えようとするだろう。
既にその兆候が覗いており、他国を狙うそぶりを見せていた。
さすがにそれはさせないように制御しているものの、手綱を放した瞬間、エルフ達は侵略を開始するはずだ。
強力な悪魔に滅ぼされるまで、延々と殺戮を繰り返す。
だからそうなる前に私が殺すのだ。
その存在ごと罪を引き継いで終わらせるのが一番だった。
(復讐とは虚しいものだ。誰も得をしない)
エルフ達は無念を晴らすことができたが、その先の末路は碌なものではない。
発端である三国は甚大すぎる被害を負って、何の関与もしていない民も犠牲となった。
その結末が分かっていたにも関わらず、私はエルフの女王に契約を迫った。
何の非もない彼らが蹂躙されるままに死に絶えることを許さなかったのである。
そんな私の選択が、途方もない死を生み出した。
滅びかけた王都からは、憎悪の念が漂っている。
エルフ達のものではない。
彼らは虐殺を満喫している。
憎しみを滾らせるのは、何の罪もなく殺されゆく民達だ。
民は不条理に怒り、神を恨んでいる。
私と契約を結ぶに値する者もいた。
しかし、手を差し伸べることは決してない。
ここで復讐代行を請け負った場合、私が殺すべき対象はエルフ達になる。
終わりなき報復戦が始まるため、どちらか一方にしか加担しないと決めていた。
少年は目的が合致したので手を貸したが、今回は傍観者に徹するつもりだ。
無力な民にできるのは、苦しみの少ない死を祈ることだけだった。




