第101話 死の満ちる都市
およそ四年後。
私は荒廃した王都の上空を歩いていた。
眼下では数々の惨劇が広がっていた。
赤黒い身体を持つエルフ達が住民を虐殺している。
「踊れ」
エルフ達が弓を放った。
形状からして王国兵士から奪った物だろう。
彼らの矢はほぼ一直線に飛び、逃げ惑う住民を的確に射殺した。
さすがは弓の名手とも呼ばれるエルフ族だ。
先ほどから連射しているが、一本も外さずに犠牲者を増やしている。
「憎め」
崩壊した街の門では、黒い炎が盛っていた。
一向に途絶える気配もなく、外界へと繋がる道を封じている。
あれはただの炎ではない。
私の能力の粘液を燃やしたものだ。
エルフ達が魔術で形状変化させたのだろう。
時折、操られた炎が周囲に飛散して家屋や人々を焼き払っている。
炎を同化したエルフ達は、歓声を上げていた。
同じ粘液で構成される彼らにとっては無害なのだ。
むしろ嬉々として炎を操作し、着々と蝕むように火災を誘発している。
「足掻け」
王城では貴族達が拷問を受けていた。
塀の上から吊るされて、身動きが取れなくなっている。
その状態で鈍器や刃物を叩き込まれていた。
彼らは血みどろになっても回復魔術で治癒されている。
死なない程度に加減されながら、もう半日ほどはこの仕打ちを受けていた。
それでもエルフ達が飽きることはない。
拷問役の順番待ちは、長蛇の列となって街の中央部まで続いている。
「嘆け」
路地を駆ける少数の集団があった。
先頭を進むのは一人の兵士で、後に続くのは修道服を着た女と子供達だ。
教会から逃げてきたのだろうか。
彼らは人目に付く通りを避けて王都の外周部を目指している。
それを追跡するのはエルフ達だ。
エルフ達は鉈や鎌や包丁を持って騒ぎ立てながら走る。
魔術で進路を阻むのは簡単だが、それをしないのは狩りを長く楽しむためだろう。
「祈れ」
大空に反響するのは王族達の悲鳴である。
彼らは空から地上に落下し、そのまま激突して血飛沫を上げた。
それでも死んでいない。
エルフ達が魔術で入念に強化することで、落下で即死しないように調整しているのだ。
ただ、満身創痍には違いない。
全身の骨が折れて内臓が破裂したはずだ。
最低限の生命維持と意識の明瞭化のみ徹底された王族達は、風の魔術で再び上空に持ち上げられて、悲惨な自由落下を繰り返す。
極度の苦痛を味わいながら死ぬことも許されない。
一部始終を見守るエルフ達はいずれも満面の笑みを浮かべていた。
徐々に肉塊と化していく王族に拍手を送る。
街全体で同じようなことが繰り広げられていた。
どこもかしこも死と暴力と欲と憎悪と歓喜で埋め尽くされている。
それが現在の王都であった。




