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第1話 エルフの国

 森の美しいエルフの国。

 その首都において、私は上空を歩く。

 私は眼下に広がる光景を傍観していた。


「ああ、惨劇だ」


 兵士達が勢い付いて攻め込む。

 抵抗するエルフが次々と斬り殺されていった。

 血飛沫が大地を穢す。

 エルフの悲鳴が兵士の歓声に塗り潰される。


「悲劇だ」


 魔術の投射が弓を構えるエルフを焼いた。

 屋根から転がり落ちた挙句、首の骨を折って痙攣する。

 誰も助ける者はいない。

 それだけの余裕も残されていないのだった。


「絶望だ」


 家屋に隠れていた若いエルフが捕縛された。

 髪を掴まれて引きずられていく。

 その先には馬車が待っていた。

 既に拘束したエルフが詰め込まれている。


「怒りだ」


 兵士に殴りかかるエルフの少年がいた。

 しかし返り討ちとなる。

 あまりにも無力であった。


 痣だらけになって気絶した少年は、兵士によって抱え上げられる。

 そして、近くの井戸に放り込まれた。


「悲しみだ」


 腹に穴の開いたエルフの死体が横たわる。

 そこに寄り添う女性がいた。

 血で汚れながら慟哭している。


「恐怖だ」


 路地裏には、逃げ惑うエルフの子供と老人の姿があった。

 それを追うのは兵士達である。

 剣と盾を打ち鳴らして囃し立てていた。

 子供と老人は懸命に走るが、間もなく追い付かれるだろう。


「嗜虐だ」


 棍棒を持った兵士が、無抵抗のエルフを滅多打ちにしている。

 数人が交代しながら棍棒を振り下ろしていた。

 ただの憂さ晴らしだ。

 そこには何の生産性もなかった。


「肉欲だ」


 若いエルフの娘が組み敷かれて、服を剥かれていた。

 上に乗るのは半裸の兵士だ。

 下卑た顔で押さえ付けている。

 周りに立つ兵士は、自身の順番を心待ちにしていた。


「人間だ」


 エルフの国が蹂躙されている。

 誇りも尊厳も何もかもを奪われている。

 象徴である森が焼かれている。


 これが真実だ。

 これが世界の縮図である。


 当たり前のように壊されていく。

 当たり前のように満たされていく。


 表裏一体なのだ。

 立場が異なるだけであった。


「醜悪だ」


 傍観者である私は、エルフの城に到着した。

 ここまではまだ兵士も辿り着いていない。

 しかし、いずれやってくるだろう。

 彼らの欲望が途中で止めるはずがない。


 だから私はここへ来た。

 今宵、傍観者の立場を捨てるために。

 それは相手次第だが、きっと私は代行者になるのだろう。

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