3-相手のきもち。
第三話-相手のきもち。
僕は吹春 陽奈汰、今日から獣坂高校の二年生になる黒猫の獣人。
今朝は講堂でのくだらない校長先生の話を適当に聞き流して、教室での新担任の話はなんとなく聞いていた、が…
聞いている間、終始隣の席から視線を感じていた。
その視線の正体は一度僕が間違えて座っていた席の人物、コーギー種の獣人であるアキヅキだ。
隣の席でなおかつ一度自分が間違えて座っていたから、仕方なく、あまりしたくはなかった挨拶をして名乗ったのは良いが何故こいつはずっとこっちを見ているのだろうか…
あまりそちらを気にしている事を悟られるのは良くないから、その時はその視線に気づいていないフリを貫き通した。
そしてその担任の話も終わればあとは自由、僕はその彼を放っておいてそそくさと教室を後にした。
早めに下駄箱へと向かい、履いていた上履きを入れて自分の靴を取り出した。その時、
「ヒナタくーん?」
僕を呼ぶ声が聞こえた、その声の主は見なくても判る。
「はぁ…何だい、ハヤテ?」
ため息混じりにそちらを向くと思った通り、僕の数少ない友人だった。数少ないと言っても、それを気には病まずむしろその方が気楽だからそうしているんだが。
彼の名前は入夏 颯、中学校が僕と同じだった金糸雀の鳥人。
「どうせヒナタの事だから、また友達を作ろうとせずに真っ先に帰ろうとするんじゃないかと思ってね。それで急いで下駄箱に来たらたまたま見つけたってワケ」
「まったく…君のそういうのは余計なお世話なんだっていつも言ってるだろう?」
そう、中学の頃から無理やり僕に友達を作らせようとして、彼の友達もいる事を隠して僕を遊びに誘ってきた事もしばしばあった。
「僕はあまり友達は多く要らないんだって、何度も言ってるだろう? よく話す相手が1、2人居れば良いんだ」
「だーかーらっ、僕はそれが心配なんだよ? いつヒナタを見かけても、一人で居るところしか見たことないんだからね?」
「その方が気楽で良いんだ… 君だけくらいの方が。」
「もー…そんなんだからヒナタはダメなんだよ?」
まったく、ハヤテのお節介は慣れてきたとはいえ流石に参る。
僕はふと今朝の事を思い出して、それを話してみることにした。
「そういえばハヤテ、今朝あった話を聞いてくれるかい?」
「おっなになに、僕に相談?」
「…やっぱやめるわ」
「いやなぜに!?」
「なんかめんどくさそうだから。」
「大丈夫、ヒナタの話ならなんでも聞くよ? 相談とかならちゃんと乗ってあげるからさ!」
「…それじゃ話すけど…」
そのまま僕は話し始めた。
「今朝僕が座る席を間違えたんだけどね… 何故か知らないけど、その後からずっとその彼が僕の方を見ていたんだ…」
「うーん…根に持たれてるとか?」
「そういう感じの視線じゃあなかったかな。 それよりも何だか、少しボーっとした感じだったかも。」
そう、なんだか気の抜けた様な少しポカポカした表情で見られていた。
何か考えている様子もなく、ただボンヤリとしていた顔だった。
「ボーっとねぇ、なるほどなるほど…」
「何、理由でも分かったの?」
「いいや? ちなみにその子の名前って聞いたの?」
「聞いたけど…知ってどうするのさ。」
「ちょっと気になるだけ、良いから教えて?」
どうせハヤテの事だから勝手に調べたりするんだろうが、教えてくれなきゃ気が済まないだろうからここは言わなきゃ話が終わらないのは知っている。
「はぁ… アキヅキコカゲ、そう言ってたよ」
「アキヅキくんか…聞き覚えは無い名前だね、教えてくれてありがとう?」
「はいはい…じゃあ僕はそろそろ帰っても良いかな、一人の時間が欲しいんだ」
「うん、それじゃあまた!」
やれやれ、やっと離れられる。
「…正直僕は余計な世話を焼いてくれなくても良いんだけどね」
僕は小さな声で漏らした。
「ん? ヒナタ何か言った?」
「別に、何も言ってないよ。」
そして僕はやっとの思いで落ち着いて一人家へと帰った。
僕は他に友達は全く要らない、この時期は…少なくともそう思っていた。