1-最初のであい。
第一話-最初のであい。
あまりにも突然だった。
なぜか俺はその人を一目見た時、今までにないくらいの強い暖かさを心に感じた。
それはまるで大きな木陰の中にいる自分の周りに突然明るい日の光が差し込んで、陽だまりが出来たかのような感覚だった。
その陽だまりはちょうと自分ともう一人が入れるくらいの、丸いひとつの陽だまりだったような気がした。
俺は秋月 琥景、今日から晴れて高校2年生になる16歳のコーギー獣人だ。
講堂で今どき長い話をする校長の始業式ってないだろとか、今年も特筆する事なく過ぎるのかなとか、そんなくだらない事を考えながら他の生徒たちの流れに乗って今日からの新しい一年間を過ごすであろう新しい教室へと足を運ぶ。
自分の座る席を確かめる為に黒板の張り紙の前に群がっている所へ近付き、自分も確認をしようと背伸びをする。あった、自分の名前を見付けた。しっかりその席を覚えてその場所へ向かう、が…
そこには真っ黒で綺麗な毛並みの猫人が、目を閉じ軽く俯いて背もたれに寄りかかるように座っていた。
どれくらいの間そうしていたかは分からないが、後から考えると多分そんなに長くはなかったと思う。が、それでもかなりの体感時間、俺はその猫人にうっとりと見惚れていた。
気が付くと俺は、その吸い込まれそうな黒にゆっくりと手を伸ばしていて…その時。
俺の気配に気付いたのか、その猫人の目が開いてこちらに向く。
「え、えっと…」
動揺して、ついどもってしまった。
「…何、君。」
短く言葉を発する猫人。
「あ…ここ、俺の席なんだけど…」
何故か、少し緊張しながら応えた。
「ああ、そっか…悪かったね」
そう言うと黒猫は面倒くさそうに彼自身の荷物を持ち上げて立ち上がり、張り紙を確認しに行った。
その一連の所作をなんとなく眺めながら、俺は席に着いた。
すると何故かその猫人はこちらへ引き返してきた。え、俺が間違えてた?と思いつつあたふたと戸惑っていると…
彼は俺のすぐ右前の席へ座った、そしてそのまま顔だけこちらへ向けて
「さっきはごめんね。僕の席、こっちだった」
と、バツの悪そうな態度もなく、そっけなく言い放った。
「あー、別に良いって…俺は琥景、秋月 琥景。よろしく…?」
なんとか自分を落ち着かせながら、極めて自然に挨拶をしようと心がけた。
「…フキハル ヒナタ、よろしく秋月。」
先と変わらない言い方で挨拶を返された、とりあえず悪い印象は与えてないよな…?
ヒナタ、それがその猫人の名前だった。
その日の事はこれからも絶対に忘れられないだろう、初めてヒナタと交わしたやりとりだったんだから。