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終章

 あれから一ヶ月、瀬戸内海の水位は無事に元通りになり、世間はすっかりそのこと自体を忘れつつあった。

 砕けてしまった小祝島は戻らないが、今回の件を機会に祝島の文化は改めて注目を集めるようになったそうだ。

 一応神様へと奉納する舞なのだから、あの神様も喜んでいるかもしれない。

 さて、玉の湯はどうなったかと言うと、


「いらっしゃいませーっ! あっ、金戸さん、皆も」

 

 玉の湯を金戸、釜森、長船、マリン、アイカが訪れていた。

 何か事件が起こったわけではない。

 あくまでもお客としてだ。


「知人割引とかないかね?」

「はいはい、無料でいいですよ。皆さんもどうぞー」


 金戸が金にがめついのも相変わらずだ。

 それでも、最初に取り交わした契約はきちんと果たされ、玉の湯には政府からの資金提供が行われた。

 表向きには地方の銭湯文化を守るための補助金、などとされている。

 アイカとマリンには研究施設が提供され、長船さんには例の巨大スワンボートが与えられた。

 どうも、神の御利益でもあったのか、どれだけ無茶な運転をしても沈まないそうだ。


「それはそれで、スリルがなくてつまらん」


 とは、長船の意見ではあるが。

 釜森も無事にアイドルと出会い、ドッキリ番組に便乗してキスを果たしたそうだ。

 番組では肝心なところはモザイクがかけられていたが、あれ以降しばらくの間、テレビで見るそのアイドルの顔色が優れなかったことを考えると、見事に目的を果たしたのだろう。


「湯子お姉ちゃん、大繁盛だねー」

「本当です……こういうのも神様の御利益って言うんですかね」


 今の玉の湯は、お客さんで溢れていた。

 もちろん、島民だけではここまで繁盛しない。

 島の外からも毎日のようにお客さんがやってくる。

 相乗効果で商店街にも活気が戻りつつある。


「ウチとしては、正直ちょっと微妙なところなんだけどねぇ」

「お~い、若女将。新しい石鹸はどこだったかのう」

「若女将って呼ばない! ウチは旅館じゃなくて、銭湯なんだから! 全く……高級志向が抜けきらないんだから」


 相変わらず光って顔が見えない神がそこにいた。

 しかも、『玉の湯』と書かれたTシャツにジーンズ姿で。


「よりにもよって、ウチでお風呂の研究することないのに……」

「でも、すっごい話題になってるよ! 【神が働く銭湯】って!」

「ジ〇リに訴えられないといいんだけどね……誰よ、あんなキャッチフレーズ考えたの」


 現在、玉の湯は名物従業員が働く店として、瀬戸内地方でちょっとした話題になっている。

 流石に本物の神様とは明かしていないが(本人は主張しているが、当然誰も信じない)、常識知らずな言動と、何よりあの輝く頭部見たさにお客がやって来るのだ。

 いくらなんでも全国区はまずかろうと、テレビ局の取材NGにしたことも、逆に物珍しさになってお客を増やしているのだとか。


「まあ、気長にやっていくわ。少なくとも1000年間は、瀬戸内海はそのままにしてくれるらしいし」


 そうは言っても、湯子には嫌な予感もあった。

 神様がここにいるのだ。

 どうせ、厄介なことは起こるのだろう。


「さっ、いいお湯だから入ってきて。お風呂上がりの飲み物も用意しておくから」


 何はともあれ、今日も玉の湯と瀬戸内海は平和であった。

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