おっさんの俺が、モフモフ狙いで重課金したゲームがサービス終了するらしい
家と会社を往復するだけの人生、そんな俺の心をいやす唯一のオアシスだったゲーム。今日も楽しませてもらおうと開くと、画面にでかでかとサービス終了のお知らせという文字。皮肉な事にサービス終了は俺の誕生日でもある。
「やっぱ、本当に終わっちゃうんだな……」
今日に限って誰も居ない終電に揺られながら、俺は一人小声でつぶやく。サービス終了の午前零時までは後三十分を切っていた。そこで俺はまた一つ無駄に年を取り、生きがいを失う。
ゲーム画面の中で微笑む、もふもふの尻尾をもった犬っ娘のミルク。俺の一番のお気に入りキャラだ。
性能や人気で言えば限定キャラの中でも最低だと言っていい。キャラデザが好み過ぎてそんなことはどうでもよかった。俺にとっては最強のキャラだ。
天井無しのガチャだというのに、ミルクが出るまで重課金したのも今となっては良い思い出だ。
「ありがとう、ミルク。お礼に最後の課金ガチャ行きます!」
望めば返金することもできたが、やはり最後に一度ガチャを回しておきたいと思ってしまうのは、既に習性なのかもしれない。見慣れない派手な演出の後……
「えへ、来ちゃった!」
俺の目の前にはミルクが立っていた。
「えっえっ、どういうこと?」
「おにーさんだけだもん。私を本気で育ててくれたのは。だからお礼が言いたくて」
きっと疲れすぎて夢でもみているのだろう。夢なら遠慮することなどない。
「ミルクちゃんやっぱかわいい! 最高! 俺の嫁!!」
「ありがとう。おにーさんとクリアした夏のイベントや、水着イベントも全部覚えてるよ」
「ああ、ミルクの性能を活かせる編成を考えるの、大変だったけど楽しかったなあ」
俺とミルクはゲームの思い出話をとりとめもなく続ける。どれもこれもすべてが懐かしい。
「他の子たちも言われたよ。あんなおにーさんが居てくれるミルクは幸せものだって」
「そっか、苦労した甲斐があったよ」
「あ、そろそろ時間だね。これあげるよプレゼントね」
思い出したように言うと、ミルクは尻尾に着けていたリボンを解いて、俺の左手首に結ぶ。
時計の針が真上を指す。シンデレラは帰るべき時間だ。ミルクの周りに蛍のような光が無数にあらわれると、彼女の体を包んでいく。夢の時間は終わりを告げるのだ。
「さようならミルク……」
「お誕生日、おめでとう」
何年振りかに聞いた、俺のために誕生日を祝う台詞。俺は左腕に結ばれたリボンを見ながら、不思議な気分になるのだった。