フリーティの宣戦布告
カリンの父、ハルビア家当主からの依頼だそうだ。屋敷から近い南の泉は彼のお気に入りの散歩コースなのだが、ここ一カ月くらい、謎の中年男性が棲みついてしまい、近づけないのだという。
いや、どういうことなんだよ。言葉通じないの? 近づくと襲って来るってこと?
……疑問は尽きないけど、近いうちにハルビア家に招かれることになってしまった。当主直々に話したいそうだ。
さて。
北の洞窟を後にした私とフリーティはカリンについて、南の森へ移動していた。
「行けそうだったら、このまま退治してくれちゃったりするんスかね?」
期待の眼差しに私は苦笑を浮かべる。
「いや、下見っていうかそのおじさんとやらの姿を見ておきたいから」
「なるほど~。お仕事熱心ッスねえ。もしかしてあの巨大ムカデも下見を?」
「まあね」
人間が近づいた場合の動きは把握してた。子ムカデが一斉に襲って来ることも、劣勢に立たされると洞窟の入り口に本体の巨大ムカデが顔を出すことも。
「お姉様、今度こそ勝負ですわ。そのおじさんを先に倒した方が勝ちということでどうですか?」
「やだよ」
「即答ですかっ」
「言ったでしょ。手は貸さないってさ。トルフィティ家がどうなろうと知ったことじゃないよ」
拗ねた様子で頬を膨らますフリーティだったが、しばらくして、何かを思いついたように目を見開いた。
「ん……?」
なんだろう、イタズラを思いついた子供のような表情で、にやにやとしている。不気味だ。
「ではお姉様、我がトルフィティ家を敵に回すということですね?」
「はあ? 何を」
「アルゴット・リーガン」
フリーティからその名前が出た瞬間、全身に鳥肌が立つのがわかった。
「お姉様ったらわかりやすくて可愛いですわね」
口元に手を当て、くすくすと笑う。
「……なんのつもり?」
「考えてみたら、進化したネズミごときにわたしが負けるはずありませんわよね。カリンさんとの手合わせも恐らく偶然ですわ。でも、実践に関してはお姉様の方が格段に上ですわ。それは認めましょう。だけど、そうじゃない者もトルフィティ家にはたくさんいるのですわ」
フリーティは強気な様子で私を真正面から見つめた。
「こうしましょう。あなたの元にトルフィティ家から刺客を送ります。その者に倒されたら我々のことを助けてもらいますわ。術師大会に参加して頂きます」
フリーティはそう告げると、素早く召喚した青系リリシアに飛び乗って、空へと舞い上がって行った。
「……」
「ほえー、凄い妹さんっスねー。仮にもあたしに負けたのにあの自信はどこから来るんスか?」
私達のやり取りを見ていたカリンが額に手を当て、空を見上げる。
私はため息を一つ。
「昔からああなんだよね。でも、ちょっと困ったな」
「アルゴットって誰っスか?」
「……実家にいた頃に、召喚術の訓練を担当してた先生。殴られたり蹴られたり、酷い言葉を浴びせられたり。フリーティはそれを笑って見てたし、お父様達も何も言わなかった」
カリンは、はっとした様子で視線をそらした。
「野暮なこと聞いたっス」
「ありがとう、大丈夫だよ。もし敵意を向けて攻撃をしてきたら、返り討ちにしてやるからさ」
私は低い声でそう言った。
この力で人間を傷つけるような真似はしない。今となってはトルフィティ家の人間に恨みもない。
でも、正当防衛は別だから。




