要らない子は拒否をします
「いや、そこまでしてもらって申し訳ないけどさ、お断りさせて頂きます」
私が軽く会釈をすると、お父様が肩をプルプルと震わせ始めた。
それから勢いよく立ち上がる。
「脱げば満足か!? 脱いで土下座なら良いのか!?」
「なんでだよ!」
中年の裸、しかも実父のなんか見たくないわっ! そういう問題じゃないし!
「この……恩知らずがっ」
お父様はそう暴言を吐いたかと思うと、はっとした様子で私の顔色を伺った。
私はにっこりと笑う。
「お父様、お帰りはあちらになっております」
手で玄関のドアを示してさし上げると、お父様はサッと青ざめた。
「い、いや、待ちなさい。リティアニーカ」
必死過ぎる。気持ちはわからなくもない。何しろ、四大貴族から外れてしまうと王家からの補助金が極端に減ってしまうのだ。そして、お父様が危惧しているのはトルフィティ家の名声に傷がつくということ。これまで優秀な召喚術師を輩出してきた歴史に泥を塗ることになってしまう。そうなれば他の貴族達にも後ろ指を指されることだろう。
「こうしよう。フリーティと勝負をし、お前が負けたらフラント術師大会に出てもらう。勝ったら……トルフィティ家の長女として再び貴族に戻れるよう計らおうではないか」
「おい」
勝っても負けても私にメリット皆無なんだけど?
私は肩をすくめた。
「別に貴族に戻りたくないよ。今の生活が気に入ってる」
すると、お母様が目元にハンカチを当てた。
「やっぱり、わたし達を恨んでいるのね」
「別に恨んではないよ。でも、もうそっとしておいてほしいかな。やっと私は私だけの人生を歩んでるんだから」
ここまで何年かかっただろうか。前世で二十年、この世界で十年。カナラさんに引き取られた十歳からのこの八年間は私だけの人生だ。今更、誰にも邪魔はさせない。
「お姉様」
そう言って一歩前へ出たのはフリーティだ。
「一生のお願いです。わたしとの勝負、受けて頂けませんか?」
「やだよ」
私はテーブルに肘をついた。
「私、小さい頃からフリーティに勝ったことないもん。負け勝負なんかやらないよ。それに言ってたじゃん。『お姉様じゃ、わたしには一生勝てません。何をしても、どんなことがあろうとも』って」
あの蔑んだ目はちょーっとキツかったよなぁ。あの日、マジ泣きしたもん。
「そ、それは……いえ、言ってません!」
だからなかったことにするなってば。
「あのね、お父様にフリーティ。言っちゃったことはもう仕方ない。謝って欲しいなんて言わない。でも、その言葉に責任は持つべきだよ?」
お父様達は黙ってしまった。
「ねぇ、リティ。母さんはね」
「『あんたなんか産まなきゃ良かった』って言われた時は心抉られたよね」
お母様沈黙。そのセリフ、前世でも言われたんだわ。でも慣れないんだよねぇ。
「リティ」
今度はお兄様か。だから鼻水拭けよ。
「何?」
「やはり、無理か?」
私は苦笑を浮かべた。
「ごめんね、お兄様。ちょっと無理」
「そうか」
再び涙ぐむお兄様である。泣き落としはきかないぞ。
するとフリーティが慌てた様子で私に身を乗り出す。
「な、なんかティムお兄様にだけちょっと態度違いませんかっ!?」
「まぁ、そりゃね」
使用人含めて、私を要らない子として蔑んでいたトルフィティ家。だけど、唯一、ティームお兄様には罵倒された記憶がない。嬉しいことをされた覚えもないけど。でも、私が養子に出される時に頭を撫でて一言だけど『元気でな』と言ってくれたことは忘れない。
「って、わけで、この話は終わりね。私は今から巨大白ムカデを」
「私もついて行きますっ」
フリーティが食い気味でそう叫んだ。