要らない子にお願いを
ご近所で噂になったら困るので、とりあえず家に入れることにした。
「む、なんて狭い家だ」
「嫌だわ、埃臭い」
お父様達ったら、喧嘩をお売りに来たのかしら?
イラっと来たけど我慢だ、私。
「さてと」
私はさっきのイスに腰を下ろした。
四人も座らせるソファやイスはないんだよね。悪いけど、立ちっぱで話聞こうかな。
「で、結局なんの用なの? トルフィティ家の皆さんがこんな庶民の家に来るなんてさ」
お父様が気味の悪い、優し気な笑みを浮かべた。
「何を言うんだ、リティ。お前も立派なトルフィティ家の一員ではないか」
えー……? 私は思わず、苦笑を浮かべる。
「いや、養子に出す時に『お前はトルフィティの面汚しだっ、二度と我々の前に姿を現すな、能無し娘が!』って言ってたじゃん」
「そ、それは、いや、言った覚えはないっ」
あ、なかったことにしようとしてる。
「悪いけど、今の私はリティアニーカ・アルフ。カナラさんの娘なんで」
召喚術を使用する時は魂に刻み込まれた名前を使わなきゃならないけど、この町の住民としてはアルフ家の一人娘だ。
するとお父様は深刻な表情になった。
「リティ、我がトルフィティ家は現在、存続の危機に立たされている」
「そうなの!?」
初めて聞いたよ。マジか。
「……えーと、なんで?」
正直、どうでも良い話だけど最後まで聞いてあげよう。
「我がトルフィティ家は四大上流貴族の一つ。しかし、その座が危ういのだ。王家主催のフラント術師大会において中流貴族、ハルビア家の令嬢が黒系の使い手として名を上げ始めた。先日、フリーティが手合わせをしたが瞬殺だった、と」
妹、フリーティが歯を喰いしばり、こくりと頷いた。ちなみに兄のティームはさっきからぐずぐずと泣いている。泣くなよ……。
さて。確か、フラント術師大会は貴族達のランクづけをする大会で、うちは第四位だ。今のトルフィティ家で一番強い術師はフリーティだから、ハルビア家の令嬢に瞬殺されたんじゃかなりマズイわな。
それで私のところに来たわけか。納得。
「つまり、私にフラント術師大会に出てほしいと」
お父様とお母様は神妙な面持ちでこくりと頷いた。
「今のお姉さまなら、きっと勝てますわ。わたし、信じていますの」
「妹よ、やってくれるな」
いや、やんないよ。涙と鼻水拭きなよ。
私は盛大にため息を吐いた。
「あのねえ、なんで私がトルフィティ家のために頑張らなきゃならないの? バカだのクズだのアホだの能無しだの、毎日罵倒しまくってたの、忘れたわけじゃないよね?」
小さい頃の記憶が蘇り、吐き気に襲われた。ああ、それでここへ引き取られてカナラさんに優しくしてもらって……。はあ、はやくカナラさんに甘えたいなぁ。
「そ、それはあの時は出来心で」
「出来心ねえ……」
と、四人が床に膝をついた。
そして、四人そろっての、綺麗な土下座。これは中々の絶景だ。
はい、ドン引きです。