謎の魔獣とハーリーズの執事
これが飛んで来た……のかな?
私は周囲を確認し、ゆっくりと立ち上がった。刺さっていた矢はかなり短い。弓道で使用されるサイズの、三分の一程度だろうか。
「ねぇ、ルビ」
ウサ耳カチューシャを二、三回叩いてみると、
「んがはっ!?」
そんな感じの声がした。
おい。今、絶対寝てたよね。
「わ、悪い悪い。で、どうした? おっさん倒したか?」
ほぼ最初から寝てたな?
「実は今」
説明しようとした時だった。矢の刺さった木がぐにゃぐにゃと幹をくねらせ始めた。
「うえっ! なんスか、これ!」
私とカリンは慌てて木から離れる。
木は粘土のように形を変え、驚くべきことに最終的には木目のある人型に変化したのだった。
目も鼻も口もない、現世でいう、マネキンのようだった。それは、自分に刺さった矢を抜くと、私達をチラリと見る。
カリンをかばいながら、身構えると、人型は私達に背を向けて、のそのそと森の中へ消えて行った。
しばし、私とカリンは呆然とする。ルビはどうだろ。多分、驚いてるとは思うけど。
「新種の、魔獣っスかね?」
「そうかもしれないけど、魔獣ってこんな感じの産まれ方する……?」
「擬態してたんじゃねーの?」
なくはない可能性だけど、いや、どうだろう。
「こーんにーちはー」
突如聞こえてきた妙に間延びした声に私達は反射的に振り返る。
「リティアニーカお嬢様、お久しゅうございます」
深々と頭を下げたのは燕尾服……つまり執事服の男性である。残念ながらその顔に見覚えがあった。
「リティさんのお知り合いっス?」
「……いや、知らない人だね」
私はカリンの手を引いて歩き出した。
他人の振り&無視したのに、物ともせず、着いてくる。
「お嬢様ぁ、そうやってひねた態度を取るから、ハーリーズ旦那様に嫌われるんですよぉ?」
嫌味な言い方がすごく腹立つ。ハーリーズの執事だ。
私は立ち止まって、自分の前の地面に術円を描いた。
「嫌われてもまったく問題ないよ。あなたのご主人と私はなんの繋りもないので。ていうか、絡んで来ないでくれる?」
私は顔だけで振り返り、
「どうしても構ってほしいって言うなら……本人が来なよ。相手してあげるからさ」
そう言って詠唱の最後の言葉を口にした。




