ハルビア家にて2
報酬の交渉も終わったし、本題に入ろう。まず、詳しい話を聞く。
アルゴットにやったように力業で退治するのは簡単だけど、黒系白系の召喚術を何回も使っていると、体にダメージが蓄積していく。ゲームのMPみたいに消費数値が見えれば良いんだけど、この異世界にはそういう要素がないらしいのだ。何回使えるかは術者の感覚で判断する。
「それで、いつから現れたんですか?」
「うん。二週間くらい前だね。日課にしてる、散歩をしてる時に泉から顔を出してきて、驚いた覚えがあるよ」
「ちなみに意志疎通は取れそうでした?」
「何か言いたそうにはしてたんだけど……とっさに召喚術で魔獣を呼び出したからか、威嚇されてしまってね。以来、近づけないというわけだ」
あの姿……私の場合は転生だけど、転移してこの異世界へ来た人もいるんじゃないだろうか。
誰かに召喚魔獣として呼び出されたのかもしれない。
……私は、何を期待してるんだろうか。
「何か攻撃を仕掛けられたりとか?」
「飛びかかってきたよ。だから反撃したんだけど、それでも追い払うことができなくてね」
対話を試してみる価値はありそうだ。
「わかりました。じゃあ、行ってきますね」
「たのむよ。それと、カリンをよろしく」
私は頷いて、カリン、ルビと共に南の泉へ向かうことになった。
「ではでは、お手伝いってことでよろしくお願いしまっス」
「うん。こっちこそ」
ちなみにルビはすでにウサ耳バージョンだ。
「そういえば、あの杖、こわれちゃったんスよね?」
「ああ、あれね。便利だったんだけどね」
「新しいの買わないんスか?」
「今考えてるところ」
ルビにも言われたが、あまり高いものを買うとろくなことがないのだ。
雑談を終えたところで、南の泉に到着した。茂みから覗くが、おじさんの姿はない。泉に潜っているのかも知れないが、水が透き通ってるから考え難いが……。
「いないみたいだね」
「いいや、この泉凄く深いんスよ。底が見えてるように見えるっスけど、そうじゃなっていう」
「え、そうなんだ」
結構怖いな。
私は泉の縁に立った。今回は、カリンも止めなかった。
泉の中を覗き込んだその時。
「!」
ぬっとハゲ頭が水面から出てきた。
私は慌てて後ずさる。
「顕現せよ!」
爪の術円からカンガルー型召喚魔獣を呼び出す。
するとおじさんはゆっくりと泉から上がってきた。うん、昨日見た通り、ビールっ腹にトランクス姿だ。
「リティさん、加勢するっスか!?」
後ろからの声に私は首を振って、
「大丈夫」
泉の縁に立った彼は虚ろな瞳をしていた。
「……あなたは何者なんですか?」
言葉が通じるような気がしてならない。そう語りかけてみると、
「あ、が……き」
「え?」
今何か言った?
「なんですか?」
「あがきがきががかあきが」
彼の口から漏れるその音が、意味をなす言葉ではないとすぐにわかった。背筋が冷える。
やっぱり日本からの転移者だなんて予想は都合が良すぎたかな。
たまたまこういう形をした新種の魔獣なのだろう。
「こおおおお」
そして、喉奥から漏れるような声を出しながら歯茎をむき出しにしてきた。




