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この戦いは長引かない

 この八年間、一度足りとも会いには来てくれなかった。会いに行っても、顔さえ見せてくれなかった。養母のカナラさんは、出来るなら忘れなさいと言ってくれるけど、そうもいかないのが人間という生き物だ。

 無関心を装ってたけど、やっぱり私はトルフィティ家を恨んでいるのだろう。自覚してしまった。でも、その感情で自分を見失いたくはない。


「おいおい、表情が固いぜ?」


「! あ、うん。緊張しちゃって」


「してねぇだろー?」


「あはは。冗談冗談」


 肩に乗っているのはもちろん、ルビである。私は早朝の街をトルフィティ家のある貴華エリアへと向かって歩いていた。貴族達が住まう、豪邸が並ぶ地区だ。


「ふぁぁあ」


 ルビが大きなあくびをする。


「あー、かったるいぜ~」


「私もだよ。早く終わったら、カフェでモーニングでもする?」


「おう、いいな! ていうか、無傷で帰る自信あんのな」


「まぁね」


 やがて、トルフィティ家の門が見えた。うちの家百個分くらい?

 出迎えてくれたのは送り出された時と同じ、お兄様だった。


「こっちだ」


 私は頷いて、門をくぐった。朝早くにも関わらず、使用人が何人もいて、ヒソヒソとした声が聞こえてくる。


「戻ってくるって本当なの? 嫌よ、あの子のお世話係なんて」


「恥知らずだよな……」


 ルビが呆れた様子で私の耳に囁く。


「ずいぶんな言われようじゃねえか」


「うん、こんな感じだった。懐かしいね」


 お兄様に案内されたのは、トルフィティ家の競技場。中は東京ドームみたいな感じ。

 その端っこに師匠が立っていた。使用人ギャラリーも増えているようだ。イベント扱いやめてくれないかな。


「よく来たな」


「来いって言われたからですけどね」


 まったくもって偉そうだ。

 さて、お父様、お母様、フリーティの三人は用意された椅子に腰をかけていた。わざわざ見物席用意したのか……。


「リティアニーカよ、約束通り、アルゴットに敗北したら、トルフィティ家に戻ってきてもらう」


「で、ルールは?」


 私がぶっきらぼうに問うと、フリーティが立ち上がった。


「お互いに召喚魔獣を召喚し終えたら、勝負開始ですわ」


 召喚術師の勝負には大きく分けて二通りのルールがある。一つは今言ったように、お互いに魔獣を召喚し戦闘に入る。もう一つは通常の武器を使ったり肉弾戦などがメインで、相手の予備動作を防ぎつつ自分の魔獣を呼び出し戦闘するというもの。

 どっちにしろって感じだ。


「で、では互いの召喚魔獣を呼び出して頂きますわ。初めっ」


 師匠が手のひらに描いた術の円を、こちらにかざす。


「黒き魔獣の地よ。アリーナの息吹をここに。アルゴット・リーガンの名の元に顕現せよ」


 術円が光ったかと思うと、ゴリラ……じゃないな。なんか体長三メートルはあるかというビックフットみたいな生物が現れた。


「さぁ、能無し、お前の番だ」


 いちいち悪口混ぜてくるな。

 私は息を吐いた。


「じゃあ、遠慮なく」


 私の召喚魔獣がこの場に現れた瞬間、戦闘が開始される。


「どうする? 俺も補助するか?」


「うん」


 ルビがウサ耳カチューシャへと変化する。多少、術の精度が上がるから、ないよりはあった方が良い。

 私は自分の頭上に光の円を描く。


「黒き魔獣の地よ、白き魔獣の地よ」


 師匠が眉を寄せる。


「アリーナの息吹をここに、アリーナの息吹をここに」


 周りがざわざわし始める。


「リティアニーカ・トルフィティの名の元に顕現せよ」


 私は静かに詠唱を終えた。

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