泉のおじさんとリティのスタンス
フリーティのことは置いといて、カリンと共に南の泉に到着した。
木々に囲まれた美しい場所だった。透き通るライトグリーンの水、小魚が泳ぎ水草が揺れている。森が開けた場所のため、涼しい風が通って行く。
「確かに散歩コースには最高だね」
私はそう言って泉のほとりに歩み寄ろうとしたのだが、
「ストップ」
カリンに止められてしまった。茂みに引き戻される。
「隠れて姿を確認した方が良いっスよ」
一体どんだけ凶暴なおじさんなの……?
「あっ、出たっ」
「えっ、どこ!?」
私達がいる泉のほとりの反対側、水が盛り上がり、何かが水面に浮上した。
「お、おじさんだ……」
うえ、あれは確かにそう表現するしかない。側頭部には髪が残っているが、頭頂部はつるっとしている。小太りでビールっ腹、そしてトランクス一枚。
前世でよく見かけた、おじさんの風呂上がりバージョンって感じだ。
なんで半裸……?
「それで、ここで行っとく?」
恐る恐る聞いてくるカリンである。
「いや、出直すよ。カリンのお父さんにも話聞きたいし」
「うん、あたしもそれが良いと思うっス」
この世界では未知の生命体だ。用心した方が良いだろう。
そう判断した私はカリンへ視線を向けた。
「それじゃ、見つからないうちに離れようか」
私達は音を立てずにその場を離れたのだった。
森の中を街へ向けて進んで行く。
「ところでリティアニーカさんは」
「リティで良いよ」
「そう?」
カリンは嬉しそうに八重歯を覗かせた。親しい人にはそう呼ばれるのだ。
ちなみに父や母、ましてやフリーティに呼ばれるのは嫌だけど、お兄様は別に構わない、かな。
「リティさんは雇われる気はないんスか?」
「誰かの専属にってこと?」
「それなら、安定して収入を得られるし、安い仕事を受けなくても安泰っスよ。ましてやリティさんなら引く手あまた、でしょ?」
そういえば、いくつかお誘いは来てたなぁ。王様は言うでもなく、下流貴族、地主、狩猟団体など。
この世界の人達は全員が等しく召喚術を使えるが、その力の強さは本当に個人差が激しいのだ。召喚した以外の魔獣、つまり人の住む街の外にいるそれらは、例外なく人間を襲うから、自分だけの召喚術では立ち向かえない人も多い。
食糧を調達したり、魔獣の毛皮や牙などを売るために狩りに出たり、街から街へ移動するなんて場合は金で強い召喚術師を雇うのだ。
契約は一時的なものが多いが、専属になれば雇い主の依頼だけをこなし、毎月一定の給料を得られるというわけだ。
「今のところは考えてないよ」
「へぇ~。クールっスねぇ」
そうかな?
「あたしはまだ学生で、ほんとのほんとな実践経験ってないから、あのおじさん退治も任せてもらえないんスよね。二歳上なだけなのに自立してるリティさんが羨ましいっスよ」
そうか、中流貴族の中でもカリンの召喚術の才能は飛び抜けているけど、フリーティと同じように経験がないから私に依頼してきたんだな。
「で、これから王宮に?」
「うん、王様に連絡したら、返事来たから」
私は透明な石を取り出した。手のひらサイズのそれはこの世界での通信端末である。
「王様とも気軽にやりとりしちゃうとは……ただただ尊敬っス」
「いや、正直あの王様は」
透明な石に光がともり、雑音が聞こえてきた。
『リティちゃぁん、ムカデ退治ありがとね~。王宮で待ってるよん!』
以上、王様のお言葉でした。




